リスクベース・アプローチに基づくリスクの特定とは

ファイナンス

 マネー・ローンダリング、テロ資金供与対策におけるリスクベース・アプローチにおける、「リスクの特定」とはどのようなものですか。

 「リスクの特定」は、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証し、直面するマネロン・テロ資金供与リスクを特定するものであり、リスクベース・アプローチの出発点です。
 マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドラインには、金融機関等に対応が求められる事項と対応が期待される事項が記載されています。

解説

「リスクの特定」の意義

 「リスクの特定」は、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証し、直面するマネロン・テロ資金供与リスクを特定するものであり、リスクベース・アプローチの出発点です。

 包括的かつ具体的な検証にあたっては、社内の情報を一元的に集約し、全社的な視点で分析を行うことが必要となることから、マネロン・テロ資金供与対策に係る主管部門に対応を一任するのではなく、経営陣の主体的かつ積極的な関与の下、関係するすべての部門が連携・協働して、対応を進めることが必要です。

 なお、検証に際しては、国によるリスク評価の結果(犯収法に定める「犯罪収益移転危険度調査書」)を踏まえる必要があるほか、外国当局や業界団体等が公表している分析レポートその他の文書等についても適切に勘案していくことが重要です。他方、こうした分析等は、複数の金融機関等に共通して当てはまる事項を記載したものであることが一般的であり、金融機関等においては、これらを参照するにとどまらず、自らの業務の特性とそれに伴うリスクを包括的かつ具体的に想定して、直面するリスクを特定しておく必要があります。

リスクの特定(「対応が求められる事項」)(AML/CFTガイドラインII-2(1))

 マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下、「AML/CFTガイドライン」)において、金融機関等は、「リスクの特定」のため、以下の事項について対応が求められます。

  1. 国によるリスク評価の結果(犯罪収益移転危険度調査書)等を勘案しながら、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証し、自らが直面するマネロン・テロ資金供与リスクを特定すること
  2. 包括的かつ具体的な検証にあたっては、国によるリスク評価の結果等を勘案しつつも、自らの営業地域の地理的特性や、事業環境・経営戦略のあり方等、自らの個別具体的な特性を考慮すること
  3. 取引に係る国・地域について検証を行うにあたっては、FATF や内外の当局等から指摘を受けている国・地域も含め、包括的に、直接・間接の取引可能性を検証し、リスクを把握すること
  4. 新たな商品・サービスを取り扱う場合や、新たな技術を活用して行う取引その他の新たな態様による取引を行う場合には、当該商品・サービス等の提供前に分析を行い、マネロン・テロ資金供与リスクを検証すること
  5. マネロン・テロ資金供与リスクについて、経営陣の主体的かつ積極的な関与の下、関係するすべての部門が連携・協働し、リスクの包括的かつ具体的な検証を行うこと

 「取引に係る国・地域について検証を行うにあたっては…直接・間接の取引可能性を検証し、リスクを把握すること」(上記③)にいう「間接の取引」とは、制裁対象国等ハイリスク国の周辺国・地域と取引を行う場合や顧客が行う商取引行為が制裁対象国等ハイリスク国・地域に関連している場合のほか、たとえば、マネロン・テロ資金供与リスクが高いと評価される国・地域に向けた取引が、マネロン・テロ資金供与リスクが高いと評価されていない国・地域を経由して行われる場合等が考えられます。

リスクの特定(「対応が期待される事項」)(AML/CFTガイドラインII-2(1))

 金融機関等は、「リスクの特定」のため、以下の事項について対応をすることが期待されます。

  1. 自らの事業環境・経営戦略等の複雑性も踏まえて、商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客の属性等に関し、リスクの把握の鍵となる主要な指標を特定し、当該指標についての定量的な分析を行うことで、自らにとって重要なリスクの高低及びその変化を適時・適切に把握すること
  2. 一定量の疑わしい取引の届出がある場合に、単に届出等を行うにとどまらず、届出件数及び金額等の比較可能な定量情報を分析し、部門・拠点間等の比較等を行って、自らのリスクの検証の実効性を向上させること

  上記①の「リスクの把握の鍵となる主要な指標」としては、外為送金の取引件数、非対面による取引件数、非居住者顧客数・非居住者の取引件数、疑わしい取引の届出件数などが含まれ得ますが、具体的にどのような指標を用いて、定量的な分析を行うかについては、各金融機関等の事業環境・経営戦略・リスク特性等を踏まえて、判断されることになります。

 上記②の「一定量の疑わしい取引の届出」の記載は、当該届出を分析することで、金融機関等におけるリスクの特定・評価の精度の向上等に活用することを意図したものであり、「一定量」については、分析に足るだけの分量を意味します。

 疑わしい取引を的確に検知しその該当性の確認・判断を適切に行うことは、AML/CFTガイドラインⅡ-2(3)(ⅴ)疑わしい取引の届出【対応が求められる事項】④にも「疑わしい顧客や取引等を的確に検知・監視・分析する態勢を構築すること」と記載があるとおり、マネロン・テロ資金供与対策の実効性を向上させるうえで重要なものです。

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