マネロン・テロ資金供与対策におけるグループベースの管理態勢

ファイナンス

 当社は金融機関なのですが、企業グループ全体としてどのようにマネー・ローンダリング、テロ資金供与対策を講じるべきでしょうか。

 グループ全体としてのマネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等を策定し、グループ全体に整合的な形で、必要に応じ傘下事業者等の業態等による違いも踏まえながら、これを実施することが重要です。
 特に、海外拠点等を有する金融機関等グループにおいては、当該拠点と我が国における地理的・政治的その他の環境等の違いを踏まえつつ、グループとして一貫性のある態勢を整備することが必要となります。

解説

グループベースの管理態勢の意義(AML/CFTガイドラインIII-4)

 金融機関等がグループを形成している場合には、グループ全体としてのマネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等を策定し、グループ全体に整合的な形で、必要に応じ傘下事業者等の業態等による違いも踏まえながら、これを実施することが重要です。
 特に、海外拠点等を有する金融機関等グループにおいては、当該拠点等が属する国・地域と我が国における地理的・政治的その他の環境等が異なるため、実効的なマネロン・テロ資金供与対策を講ずるには、こうした違いを踏まえつつ、グループとして一貫性のある態勢を整備することが必要となります。

 また、我が国と当該国・地域との間で、法規制等において求められるマネロン・テロ資金供与対策が異なることや、情報保護法制等の違いからマネロン・テロ資金供与対策に必要な情報共有等が困難となること等も考えられます。海外拠点等を有する金融機関等グループにおいては、こうした違いやグローバルに展開する他の金融グループのプラクティス等を踏まえながら、グループベースでの整合的な管理態勢の構築や、傘下事業者等への監視等を実施していく必要があります。特に、海外業務が大きな割合を占める、または、経営戦略上重要な位置付けとなっている金融機関等グループにおいては、マネロン・テロ資金供与対策に対する目線が急速に厳しさを増していることに鑑みると、その必要性は高いものと考えられます。

 外国金融グループの在日拠点においては、グループ全体としてのマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢およびコルレス先を含む我が国金融機関等との取引状況について、当局等を含むステークホルダーに説明責任を果たしていくことが求められます。  

グループの範囲・海外拠点

 グループの範囲については、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下、「AML/CFTガイドライン」)がグループベースの管理態勢の構築を求めている趣旨に鑑み、グループ各社のリスク等に応じて、個別具体的に判断する必要があり、(連結)子会社や持分法適用会社といった持分割合によって機械的に判断されるものではありません。この点、下記6で説明する犯収法が求める外国子会社・外国所在営業所の体制整備(犯収法11条、同法施行規則32条2項)の範囲よりも広いものと言えます。

 同様に、「海外拠点等」には、一般的に、現地法人、支店、駐在員事務所等が含まれるものと考えられますが、各海外拠点等のリスク等に応じて、個別具体的に判断する必要があります。
 たとえば、外資規制のために過半数の議決権を有していない海外現地法人であっても、実質的に支配・運営しているような先は、子会社同様にグループの範囲に含まれると考えるべきでしょう。
 また、グループを形成する各事業者に求められる水準についても、グループ各社のリスク等に応じて、個別具体的に判断する必要があります。

個人情報保護法・金融商品取引法の情報共有規制との関係

個人情報保護法との関係

 個人情報保護法23条1項では、個人データの第三者提供には、原則として本人の同意が必要と規定されています。ただし、例外として「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当する場合には、あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを第三者に提供することができるとされています(個人情報保護法23条1項2号)。

 上記例外的な場合に該当するか否かは、個別具体的な事例に即して総合的な利益衡量により判断されるところ、個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-1-5(2)では、これに該当し得る例示として、「暴力団等の反社会的勢力情報、振り込め詐欺に利用された口座に関する情報、意図的に業務妨害を行う者の情報」が挙げられており、犯罪収益移転防止法に基づく疑わしい取引の届出をした顧客情報・取引情報も同様に上記例外的な場合に該当し得るものと考えます。

 なお、上記例外的な場合に該当しない個人データについては、本人の同意に基づく提供または共同利用(同法23条5項3号)によることが考えられます。

金融商品取引法との関係

 有価証券関連業を行う第一種金融商品取引業者(以下「証券会社等」)とその親法人等および子法人等との間では、事前の書面の同意なしに非公開情報を提供・受領することが原則禁止されています(金融商品取引法44条の3第1項4号、金融商品取引業等に関する内閣府令153条1項7号イ)。
 もっとも、証券会社等が、親子法人等から「内部の管理及び運営に関する業務の全部又は一部を行うため」に必要な非公開情報を受領すること、および、特定関係者(銀行等のグループ会社)に非公開情報を提供する場合には、事前の書面の同意なく提供・受領が可能です。

 「内部の管理及び運営に関する業務」の一つとして「法令遵守管理に関する業務」が含まれます(金融商品取引業等に関する内閣府令153条3項1号)が、AML/CFTガイドラインの「対応が求められる事項」である「マネロン・テロ資金供与対策の実効性確保等のために必要なグループ内での情報共有態勢を整備すること」は、法令遵守のために必要なものであり、これに該当するものと考えられます。  

対応が求められる事項

 AML/CFTガイドラインでは、グループベースの管理態勢について以下の事項が「対応が求められる事項」とされています。

  1. グループとして一貫したマネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等を策定し、業務分野や営業地域等を踏まえながら、顧客の受入れに関する方針、顧客管理、記録保存等の具体的な手法等について、グループ全体で整合的な形で、これを実施すること(グループ一貫したAML/CFT対策に係る方針等の策定・整合性のある実施
  2. グループ全体としてのリスク評価や、マネロン・テロ資金供与対策の実効性確保等のために必要なグループ内での情報共有態勢を整備すること(グループ全体としてのリスク評価・グループ内の情報共有態勢
  3. 海外拠点等を有する金融機関等グループにおいては、各海外拠点等に適用されるマネロン・テロ資金供与対策に係る法規制等を遵守するほか、各海外拠点等に内在するリスクの特定・評価を行い、可視化した上で、リスクに見合う人員配置を行うなどの方法により適切なグループ全体での低減措置を講ずること(海外拠点のAML/CFT対策法制の遵守・内在するリスク評価と人員配置などのリスク低減措置
  4. 海外拠点等を有する金融機関等グループにおいては、各海外拠点等に適用される情報保護法制や外国当局のスタンス等を理解した上で、グループ全体として整合的な形でマネロン・テロ資金供与対策を適時・適切に実施するため、異常取引に係る顧客情報・取引情報及びその分析結果や疑わしい取引の届出状況等を含む、必要な情報の共有や統合的な管理等を円滑に行うことができる態勢(必要なIT システムの構築・更新を含む。)を構築すること(海外業務展開の戦略策定に際しては、こうした態勢整備の必要性を踏まえたものとすること。)(海外拠点における情報共有・統合的な管理を円滑に行うことができる態勢の整備
  5. 海外拠点等を有する金融機関等グループにおいて、各海外拠点等の属する国・地域の法規制等が、我が国よりも厳格でない場合には、当該海外拠点等も含め、我が国金融機関等グループ全体の方針・手続・計画等を整合的な形で適用・実施し、これが当該国・地域の法令等により許容されない場合には、我が国の当局に情報提供を行うこと(注)(規制がわが国よりも厳格でない海外拠点におけるグループ全体の方針等の実施等
  6. (注)当該国・地域の法規制等が我が国よりも厳格である場合に、当該海外拠点等が当該国・地域の法規制等を遵守することは、もとより当然である。

  7. 外国金融グループの在日拠点においては、グループ全体としてのマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢及びコルレス先を含む我が国金融機関等との取引状況について、当局等を含むステークホルダーに説明責任を果たすこと(外国金融グループ在日拠点のグループ全体のAML/CFT管理態勢等の当局等への説明責任

 「グループとして一貫」(上記①)とは、マネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等の策定・実施について、本ガイドラインの趣旨も踏まえ、グループ全体で整合的な形で、方針・手続・計画等が策定され、実施される状態を指しています。
 「グループ全体としてのリスク評価」(上記②)については、グループ各社のリスクやグループとしての経営方針等を踏まえ、全グループ・全社的にマネロン・テロ資金供与対策に係るリスクを評価すること等が考えられます。

 上記⑤について、日本よりも海外の拠点の方が厳しい法規制などになっている場合は、その地域で求められるレベルでマネロン・テロ資金供与対策を行えばよいですが、日本よりも厳格でないと考えられる地域の拠点に限っては、日本で定めた方針・手続・計画等を整合的な形で適用・実施することが要請され、これが許容されない場合は、当局にその旨の情報提供を行うことになります。「我が国よりも厳格でない場合」に該当するか否かの評価は各金融機関等において行うことになります。

先進的な取組み事例

 AML/CFTガイドラインでは、グループベースの管理態勢について以下の事項が「先進的な取組み事例」として紹介されています。

事例1
 以下のように、本部がグループ共通の視点で海外拠点も含む全社的なリスクの特定・評価を行いつつ、実地調査等を踏まえて各拠点に残存するリスクを実質的に判断し、グループベースの管理態勢の実効性強化に役立てている事例。
 具体的には、海外拠点を含む全社的なマネロン・テロ資金供与対策プログラムを策定し、これに基づき、本部のマネロン・テロ資金供与対策主管部門において、拠点別の口座数、高リスク顧客数等の情報を一括管理し、海外拠点も含む各部門・拠点のリスクを共通の目線で特定・評価している。
 その上で、部門・拠点ごとの低減措置につき、職員の人数、研修等の実施状況、IT 等のインフラの特異性等も踏まえながら、各拠点と議論した上で低減措置の有効性を評価している。
 さらに、低減措置を踏まえてもなお残存するリスクについては、必要に応じて本部のマネロン・テロ資金供与対策主管部門が実地調査等を行い、残存するリスクが高い拠点については監視・監査の頻度を上げるなど、追加の対策を講じ、全社的な対策の実効性を高めている。

事例2
 グループベースの情報共有について、グループ全体で一元化したシステムを採用し、海外拠点が日々の業務で知り得た顧客情報や取引情報を日次で更新するほか、当該更新情報を本部と各拠点で同時に共有・利用することにより、本部による海外拠点への監視の適時性を高めている事例。

犯罪収益移転防止法が求める外国子会社・外国所在営業所の体制整備(犯収法11条、同法施行規則32条2項)

 特定事業者が外国において特定業務に相当する業務を営む外国会社の議決権の総数の2分の1を超える議決権を直接若しくは間接に有し、または外国において営業所(以下この項において「外国所在営業所」といいます)を有する場合であって、法、令、規則に相当する当該外国の法令に規定する取引時確認等の措置に相当する措置が取引時確認等の措置より緩やかなときは、次の措置も講ずることが求められます。なお、犯収法上、これらの措置は努力義務(犯収法11条後段)ですが、監督指針の改正により、金融機関等は態勢整備の義務を負います。

  1. 当該外国会社および当該外国所在営業所における犯罪による収益の移転防止に必要な注意を払うとともに、当該外国の法令に違反しない限りにおいて、当該外国会社および当該外国所在営業所による取引時確認の措置に準じた措置の実施を確保すること。(1号)
  2. 当該外国において、取引時確認等の措置を講ずることが当該外国の法令により禁止されているため当該措置を講ずることができないときにあっては、その旨を行政庁に通知すること。(2号)

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