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ストレスチェックの実施を外部機関に委託する場合の留意点

人事労務
百田 博太郎弁護士

 当社では、当初ストレスチェックの実施を産業医に依頼する予定でしたが、産業医から実施者にはなりたくない旨の申出を受けてしまいました。そのため、外部機関へ委託することを検討していますが、委託に際してどのような点に留意すればよいでしょうか。また、この場合、面接指導についても外部機関に委託するべきでしょうか。

 外部機関がストレスチェックを適正に実施できる体制を整備し、厳重なセキュリティ管理を実施しているか事前に確認するとともに、委託する業務の範囲および産業医の関与の有無・程度について十分に打ち合せ、委託契約において明確に定めるように留意してください。ストレスチェックの実施を外部に委託した場合であっても、面接指導については、産業医が実施することが望ましいですが、産業医の意向や来社の頻度によっては、外部機関の医師に委託することも十分に考えられます。その場合も、就業上の措置の要否・内容を決定するにあたっては、外部機関の医師の意見だけではなく、事業場の実情を把握している産業医の意見も併せて聴くことが望ましいです。

解説

ストレスチェックの実施を担うことができる人

ストレスチェックの実施者

 ストレスチェックの実施者には、医師、保健師、厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師または精神保健福祉士がなることができます(労働安全衛生規則52条の10第1項)。実施者には、ストレスチェックの実施に関して知り得た労働者の秘密について守秘義務が課されています(労働安全衛生法104条)。

ストレスチェックの実施事務従事者

 また、実施者の補助として調査票の回収やデータ入力、結果通知等の事務を担当する者を実施事務従事者といい、産業保健スタッフや事務職員が就くことが想定されています。実施事務従事者も、実施者と同様に守秘義務を負います(労働安全衛生法104条)。

実施者、実施事務従事者になることができない者

 一方、ストレスチェックを受ける労働者の解雇、昇進または異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、実施者にも実施事務従事者にもなることができません(労働安全衛生規則52条の10第2項)。
 厚生労働省が作成したマニュアル(「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」(以下「SCマニュアル」といいます))は、このような「直接の権限を持つ監督的地位にある者」には、人事を決定する権限がなくとも、人事について一定の判断を行う権限を持つ者が含まれるとしています(SCマニュアル23頁)。したがって、役員は勿論ですが、部長、課長等の管理職もこれに該当することが多いでしょう1

外部委託することの是非

厚生労働省の指針

 労働安全衛生法に基づき厚生労働省が策定した指針(「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(以下「SC指針」といいます))は、ストレスチェックは当該事業場の産業医が実施することが望ましく、外部に委託する場合にも、当該事業場の産業医が共同実施者となり、中心的役割を果たすことが望ましいとしています。また、同様に、面接指導についても当該事業場の産業医が実施することが望ましいとしています。

厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム

 厚生労働省のホームページ上では、ストレスチェックの受検、結果出力、集団分析等ができる「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を無料でダウンロードできます 。したがって、このプログラムを用いれば、ストレスチェックの実施や集団分析等をすべて社内(すなわち、産業医を実施者とし、社内の産業保健スタッフや事務職員を実施事務従事者とする体制)で行うこともできます。

産業医の役割と負荷

 法は、事業者に対し、産業医にストレスチェック制度における中心的役割を担わせることを求めています(労働安全衛生法13条1項、労働安全衛生規則14条1項3号)。産業医は、その任を果たすために必要な専門的知識を備えていなければならず、労働者の健康確保のために必要であれば事業主に勧告する権限があります(労働安全衛生法13条2項・3項)。

 しかし、現下の実情は、必ずしもメンタルヘルスへの対応について経験や意欲のある産業医ばかりではありません。また、労働者等からの責任追及のリスク(産業医が敗訴する可能性は低いとしても、訴訟の被告となること自体の負担2)を懸念し、実施者となることを躊躇する産業医も少なくないと聞きます。

 たしかに、産業医がストレスチェックの実施者となる場合、ストレスチェックの結果が高ストレスと判定され、面接指導を受ける必要があると判断されたにもかかわらず面接指導を申し出ない労働者について、産業医は、その労働者の意思を尊重して様子を見守るべきか、あるいは、その労働者の安全確保と事業者の安全配慮義務不履行リスクを考慮して何らかの動きをとるべきかという難しい判断を迫られます。
 この判断には、もとより産業医の職務に求められている高度な能力の発揮が、より一層強く求められることになるため、産業医に対し多大な負荷をかけることになりかねません。
 したがって、このような産業医の負荷を考慮すると、事業者の立場から、あえて産業医をストレスチェックの実施者にはしない、という選択をすることにも相応の理由があるであろうと考えられます。

ストレスチェックの実施を社内で行う場合の懸念

 また、ストレスチェック制度に関わる事務のすべてを社内で行おうとすると、保健師等の専門職がいない事業場では、社内の事務職員が実施事務従事者としてストレスチェックの結果を目にする体制にならざるを得ないことになると予想されます。この場合、その事務職員が守秘義務を負うとはいえ、労働者が不安を覚え、その結果として、受検回避や回答操作を助長することが懸念されるかもしれません。
 このようなことから、保健師等の専門職がいない事業場では、相当多くの事業者が、ストレスチェックの実施のすべてを社内で行うのではなく、その全部または一部を社外のEAP業者等へ委託することになるであろうと思われます。

外部委託する場合の留意点

 ストレスチェックの実施を外部に委託する場合、何よりもまず、外部機関の選定が重要となります。
 この点、まず委託先の外部機関において、ストレスチェックを適切に実施できる体制および情報管理が適切に行われる体制が整備されているかについて、事前に十分に確認する必要があります。その際、厚生労働省のSCマニュアル117頁~119頁に掲載されたチェックリスト例が参考になります。外部機関に対しどの程度の範囲の業務を委託するのかにもよりますが、一例として、選定に際して考慮すべき主な着眼点を挙げると表1のとおりです。

【表1:外部機関選定の着眼点】

着眼点 概要
1 コスト 参考までに、厚生労働省は50人未満の中小企業向けにストレスチェックの助成を従業員1人あたり500円としている。
2 実施体制 面接指導を実施する医師やその前段階としての補助的面接、さらには、面接指導を申し出ない労働者の相談・カウンセリングを担う医療・看護職、心理職を用意できるか、その能力や経験はどの程度か。
受託業務全体を管理するための体制が整備されているか、委託元の産業医、産業保健スタッフ、事務職員等とスムーズに連絡調整を行うことができるか。
集団ごとの集計・分析がわかりやすく示されるか。
3 セキュリティ 調査票の記入や回収等が第三者に見られないような状態で行える方法が取られているか。
厳重なセキュリティ管理(システムへのログインパスワードの管理、不正アクセス等の防止、キャビネット等のカギの管理など)が行われているか。
4 紙かICTか ストレスチェック実施等を紙媒体で行うのかICTで行うのか。
5 多言語対応 事業者が多くの外国人労働者を雇用している場合、多言語に対応しているかも重要となる。

 また、外部機関と委託契約を締結するに際しては、ストレスチェックの実施の事務のうち、どこまでを外部機関に委託し、どこまでを社内(産業医等)で実施するのかを明確に定めるべきことに留意すべきです。委託契約締結に際して、委託範囲を検討するために参考になる区分けは表2のとおりです。

【表2:ストレスチェック制度におけるプロセスと実施者】

事務 実施者
1 ストレスチェックの実施・受検勧奨 社内(産業医等)または外部機関
2 ストレスチェック結果の通知 社内(産業医等)または外部機関
3 面接指導の要否判定と申出勧奨 社内(産業医等)または外部機関
4 医師による面接指導の実施 社内(産業医等)または外部機関
5 医師からの意見聴取 社内(産業医等)または外部機関
6 就業上の措置の決定・実施 事業者

 制度上、社内事情を把握する産業医の関与が望ましいことは前述のとおりであり、最終的な就業上の措置の要否・内容については、事業者がその責任において決定しなければならないことに留意しなければなりません。事業者は、外部機関に丸投げして安心するのではなく、産業医等を含めた社内では行わないことを戦略的に抽出して外部機関に委託することが重要です。
 そもそも、ストレスチェックの実施は、職場におけるメンタルヘルス対策のごく一部に過ぎません。事業者には、日常の勤怠や職務遂行レベルから労働者のストレス状態やメンタル不調の兆候を察知することが期待されており、産業医には、特定の事業場に継続的に関与することにより、その事業場の実情を踏まえた助言を労働者と事業者の双方に提供することが求められています。ストレスチェックの実施を外部機関に委託した場合には、むしろ、これらの要請が一層高まると考えるべきでしょう。

医師による面接指導の実施まで外部委託する場合の留意点

 まず、前述のとおり本来は産業医が面接指導を実施することが望ましいとされています。実際、面接指導の結果を踏まえた医師の意見を聴取し、就業上の措置を講じるか否かを決定しなければならない事業者としては、たとえストレスチェックの実施を外部機関に委託したとしても、面接指導以降の事務については、事業場の実情を把握している産業医に実施してもらう方が、その後の対応をとり易い、と考えることが多いと思われます。
 もっとも、事業者は労働者からの面接指導の申出からおおむね1か月以内に面接指導を行わなければならないとされています(労働安全衛生規則52条の16、施行通達(労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令等の施行について(心理的な負担の程度を把握するための検査等関係)平成27年5月1日基発0501第3号))。
 そのため、例えば、月に1日しか来社しない嘱託産業医の場合、実際上、迅速な対応が困難なことも懸念されます。したがって、現実的な選択肢として、ストレスチェック制度における面接指導を外部委託することも十分に考えられます。
 ただし、面接指導を外部機関の医師に委託した場合であっても、事業者は、面接指導を担当した医師の意見だけではなく、産業医からも意見を聴き、労働者と事業場の実情に合った就業上の措置を講じるよう留意すべきです。

ストレスチェックの結果の保存に関する留意点

 最後に、事業者への提供につき労働者の同意がないストレスチェックの結果については、実施者または実施事務従事者が保存しなければなりません(SC指針8頁では、5年間は保存することが望ましいとされています)。この実施者等によるストレスチェック結果の保存について、事業者は必要な措置を講じることを義務付けられています(労働安全衛生規則52条の11)。
 したがって、外部機関にストレスチェックの実施を委託する事業者は、その結果の保存についても委託契約において定めるよう留意しなければなりません。その際、表1でも言及したとおり、委託先となる外部機関が厳重なセキュリティ管理を講じているかをあらかじめ十分に確認するべきでしょう。


  1. 例えば、総務課長の場合、総務課の部下の昇進について一定の判断を行う権限を有するのであれば、総務課の部下との関係では「直接の権限を持つ監督的地位にある者」に該当することになります。 ↩︎

  2. もとより産業医は、通常の産業医業務に関しても同様のリスクを負っていますが、労働者本人の同意を得ずにその結果を事業者に伝えることが厳格に禁止されているストレスチェックの実施者となることは、そのリスクをより明確に意識させることになるのでしょう(ストレスチェックの実施者としての業務が医師賠償責任保険によりカバーされるかという問題もあります)。また、産業医自らが被告にならない場合であっても、事業者を被告とする訴訟において証人となる負担も想定されます。優秀で意欲のある産業医を確保したい事業者は、産業医がこのようなリスクや負担を必要以上に懸念しないで済むような契約内容に配慮する必要があるかもしれません。 ↩︎

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