譲渡制限株式の譲渡手続

コーポレート・M&A
伊藤 菜々子弁護士

 当社が保有しているA社の株式は譲渡制限がついており、譲渡にあたりA社の取締役会の承認が必要です。このような譲渡制限がついた株式を譲渡するためには、どのような手続が必要ですか。

 譲渡制限株式を譲渡しようとするとき、株主または取得者は、会社に対して、その譲渡について承認を求めることができ、さらに、会社が譲渡を承認しない場合には、会社または会社が指定した第三者がその株式を買い取ることを求めることができます。譲渡手続にあたっては、それぞれ定められている期間に注意する必要があります。具体的な手続については、以下に詳しく述べます。
 大まかな全体の流れについてはこちらの図を参照ください。

譲渡制限株式の譲渡手続の全体の流れ

解説

目次

  1. 譲渡承認請求
  2. 取締役会、株主総会での承認
  3. 決定内容の通知
  4. 会社または指定買取人による買取り
    1. 会社が買い取る場合
    2. 指定買取人が買い取る場合
    3. 通知期限と通知の効力
  5. 売買代金の供託
  6. 株券の供託
  7. 売買価格  
    1. 売買価格の協議
    2. 売買価格の決定申立て
  8. 売買代金の決済

譲渡承認請求

 譲渡制限のある株式を譲渡しようとする株主または譲受人(以下、譲渡承認請求する者を「請求者」と言います)は、会社に対して、①譲渡する株式の数、②株式を譲り受ける者の氏名または名称(株式取得者からの請求の場合は、取得者の氏名または名称)を明らかにして(会社法138条1号、2号)、当該譲渡を承認するか否かの決定を請求することができます(会社法136条、137条1項)。

 株式の譲受人による承認の請求の場合は、原則として、株主と共同で承認請求を行わなければなりません(137条2項)。譲渡当事者の合意のみで譲渡される場合には、善意取得(会社法131条2項)や株主推定(同条1項)の制度がないため、単独で承認請求できるとすると、真の株主など利害関係人の利益を害するおそれがあるからです。もっとも、譲渡人やその一般承継人に対して承認請求を命ずる判決を証する書面を提供して請求した場合などは(会社法施行規則24条)、このおそれが少ないので、単独で行うことができます

 請求者と明らかにする内容については以下の表を参考にしてください。

請求者 承認請求 明らかにする内容
譲渡しようとする者(売主) 単独で可
  1. 譲渡する株式の数
  2. 譲受人の氏名または名称
取得しようとする者(買主) 原則、株主と共同で行う
  1. 取得する株式の数
  2. 取得者の氏名または名称
  3. 会社が譲渡を承認しない場合において、当該会社または指定買取人が譲渡制限株式を買い取ることを請求するときはその旨

取締役会、株主総会での承認

 会社は、譲渡承認請求を受けた場合定款で別段の定めがある場合を除き、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会において、当該譲渡を承認するか否かを決定しなければなりません(会社法139条)。
 ただし、定款で特別の定めをすることも可能であり、取締役会設置会社であっても、株主総会で承認すると定めることもできますので(会社法139条1項ただし書)、その場合は株主総会における承認決議が必要となります。

決定内容の通知

 会社が、譲渡を承認した場合には、その決定内容を請求者に通知しなければなりません(会社法139条2項)。なお、譲渡承認請求の日から2週間(定款で短縮することも可能です)以内に通知をしなかったときは、会社は譲渡の承認の決定をしたものとみなされます(会社法145条1号)。
 したがって、会社が承認しない場合は、2週間以内にその旨を通知しなければなりませんので注意が必要です。この期限は、請求者と会社との合意で変更することができます(会社法145条ただし書)。

 承認・不承認の決定内容と通知内容については以下の表を参考にしてください。

承認または不承認の決定 通知内容 備考
承認の場合 承認する旨の内容
不承認の場合 承認しない旨の内容
会社または指定買取人の通知(請求者から請求があった場合)
譲渡承認請求の日から2週間以内に行う必要あり

会社または指定買取人による買取り

 請求者が、譲渡承認請求の際に、会社または指定買取人による買取りを請求し、会社が譲渡を承認しなかった場合には、会社は、会社自身が買い取るのか、指定買取人を指定するのかを決定しなければなりません(会社法140条)。

会社が買い取る場合

 会社が買い取る場合は、取締役会設置会社であっても、株主総会において、①株式を買い取ること、②会社が買い取る株式数について決議をします。この決議は特別決議です(会社法140条2項、309条2項1号)。
 なお、この場合、会社が自己株式を取得することになりますので、財源規制が適用されることにも注意が必要です(会社法461条1項1号、465条1項1号)。

指定買取人が買い取る場合

 指定買取人が買い取る場合取締役会決議で指定買取人を指定することができます(会社法140条4項、5項)。指定買取人は、指定を受けたときは、①指定買取人として指定を受けた旨、②指定買取人が買い取る株式数について、請求者に通知をしなければなりません(会社法142条1項)。

通知期限と通知の効力

(1)会社が買い取る場合

 会社は、株主総会で決議した事項を、請求者に対して、通知しなければなりません(会社法141条1項)。この通知は、会社が請求者に対して、譲渡の承認をしない旨を通知した日(上記「3 決定内容の通知」参照)から、40日(定款で短縮することも可能です)以内に会社による買取りの通知をしなかった場合には、譲渡を承認する旨の決定を行ったものとみなされます(会社法145条2号)。

(2)指定買取人が買い取る場合

 会社が請求者に対して、譲渡を承認しない旨を通知した日から、10日(定款で短縮することも可能です)以内に指定買取人による買取りの通知をしなかった場合に、譲渡を承認する旨の決定を行ったものとみなされます(会社法145条2号)。
 これらの通知とあわせて、下記「5 売買代金の供託」に記載のある供託を証する書面の交付もしなければなりません。

 通知によって、請求者と、会社または指定買取人との間に株式の売買契約が成立すると解されています。そのため、請求者は、これらの通知を受けた後は、譲渡の承認請求を自由に撤回することができなくなります(会社法143条1項、2項)。

売買代金の供託

 上記「4 会社または指定買取人による買取り」の、会社または指定買取人が買取りの通知をしようとするときは、1株あたりの純資産額に対象株式の数を乗じて得た金額を会社の本店所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を請求者に交付しなければなりません(会社法141条2項、142条2項)。

株券の供託

 請求者は、対象株式が株券発行会社の株式である場合は、上記「5. 売買代金の供託」の供託を証する書面の交付を受けた日から1週間以内に、対象株式に係る株券を供託しなければなりません(会社法141条3項)。その際に、会社に対して、遅滞なく当該供託をしたことを通知する必要があります。
 この期間に、供託がなされなかった場合会社または指定買取人は、株式の売買契約を解除することができます(会社法141条4項、142条4項)。

売買価格  

売買価格の協議

 株式の売買価格は、原則として、会社または指定買取人との間の協議によって決められます(会社法144条1項)。

売買価格の決定申立て

 買取価格の協議が整わないときは、当事者は、買取りの通知があったとき(売買契約の成立時(上記「4-3. 通知期限と通知の効力」参照)から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立をすることができます(会社法144条2項)。
 裁判所は、譲渡承認請求時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮して決定します。この申立てがなく、協議が整わないときは、供託金額が売買価格となってしまいます(会社法144条5項、7項)。

売買代金の決済

 株式の移転は、売買代金の支払時に効力が生じます供託額は、売買代金の支払に充当されます(会社法144条6項、7項)。

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