ベトナム企業と合弁契約書や株主間契約書を締結する際の留意点~マジョリティ出資の場合~

国際取引・海外進出
渡邉 純子弁護士

 当社がマジョリティ出資をする形態で、ベトナム企業と合弁契約書や株主間契約書を締結する場合に実務上留意すべきポイントを教えてください。

 マジョリティ出資者の場合には、社員総会または株主総会の法定の普通決議事項の決議を通じたコントロールによって、基本的には自社の意向に基づいて対象会社の運営を行うことができますので、合弁契約書や株主間契約書を締結する場合においては、契約の相手方となるマイノリティ出資者の権利をいかに最小限にとどめるかが重要です。マイノリティ出資者に一定の拒否権を与える場合のデッドロックの定めや、ベトナム企業法における関係者間取引の規制に由来する実務上の問題点についての定めもポイントになります。

解説

目次

  1. はじめに
  2. ベトナム企業法に照らした「マジョリティ出資」の意味
  3. マジョリティ出資の場合の合弁契約書における留意点
    1. 総論
    2. マイノリティ出資者に与える拒否権に関する留意点
    3. 関係者間取引

はじめに

 ベトナムで新たに合弁会社を設立して合弁相手との間で合弁契約書を締結する場合や、ベトナム企業を対象会社とするM&A取引において相手方の株式すべての買い取りを行わず、ベトナム側のパートナーが残存する場合等においては、合弁契約書や株主間契約書を締結することになります(以下、合弁契約書や株主間契約書を合わせて「合弁契約書」と呼びます。)。

 合弁契約書における留意点は、自社の出資がマジョリティ出資の場合とマイノリティ出資の場合とで大きく異なりますが、本稿ではマジョリティ出資の場合の留意点を解説します。マイノリティ出資の場合の留意点と、ベトナム企業との合弁事業において実務上よく生じるトラブルの対応策については、それぞれ以下のQ&Aもご参照ください。

ベトナム企業法に照らした「マジョリティ出資」の意味

 本稿では、「マジョリティ出資」を、「対象会社の最高意思決定機関における普通決議事項を単独で決定することができる出資」と定義します。

 ベトナム企業法上、2名以上有限会社と株式会社のそれぞれにおける各種決議の決議要件および決議事項は以下のとおりです。よって、対象会社の会社形態が2名以上有限会社の場合は、(普通決議要件を65%から引き下げる旨の)定款の別段の定めがない限りは、65%以上の出資が、対象会社の会社形態が株式会社の場合には51%以上の出資が、それぞれにおけるマジョリティ出資となります。

【2名以上有限会社と株式会社それぞれにおける決議要件および決議事項】

2名以上有限会社
(社員総会)
株式会社
(株主総会)
普通決議の決議要件 出席社員の出資額総額の65%以上の賛成が必要(定款で修正することも可能) 出席株主の議決権総数の少なくとも51%以上の賛成が必要(定款で修正することも可能)
特別決議の決議要件 出席社員の出資額総額の75%以上の賛成が必要(定款で修正することも可能) 出席株主の議決権総数の少なくとも65%以上の賛成が必要(定款で修正することも可能)
特別決議事項

(1) 直近の財務諸表に記載された総資産額の50%以上(または定款で規定する、より低い割合もしくは額)の価値を有する財産の売却

(2) 定款変更

(3) 組織再編

(4) 解散の決定

(1) 発行する株式の種類および種類ごとの発行可能株式数

(2) 事業領域および事業分野の変更

(3) 管理組織機構の変更

(4) 直近の財務諸表に記載された総資産額の35%以上(または定款で規定する、より低い割合もしくは額)に相当する投資または財産の譲渡

(5) 組織再編、解散

(6) その他定款で定める事項

普通決議事項

(1) 会社の経営戦略および年間経営計画の決定

(2) 定款資本の増資または減資、資金調達の時期および方法の決定

(3) 会社の投資および開発プロジェクトの決定

(4) 市場開拓、マーケティング、技術移転に関する措置の決定および直近の財務諸表の総資産額の50%以上(または定款で規定する、より低い割合もしくは額)の価額に相当する借入の承認

(5) 社員総会議長、社長、会計主任およびその他の定款で定める重要な役職者の選解任または罷免

(6) 社員総会議長、社長、会計主任およびその他の定款で定める重要な管理職の報酬、賞与その他の諸手当の決定

(7) 年次財務諸表、利益配当計画および損失処理計画の承認

(8) 会社の組織体制の決定

(9) 子会社、支店または駐在員事務所の設置の決定

(10) 定款の変更

(11) 組織再編の決定

(12) 倒産の申立ての決定

(13) その他法令または定款に定める事項

(1) 会社の発展計画の決定

(2) 株式の種類ごとの毎年の配当額の決定

(3) 取締役会の構成員および監査役の選解任または罷免

(4) 直近の財務諸表の総資産額の35%以上(または定款で規定する、別の割合もしくは額とすることも可能)に相当する、借入または資産売却の契約締結の承認

(5) 定款変更

(6) 年次財務諸表の承認

(7) 各種類の株式についての発行済株式総数の10%を超える買い取り

(8) 会社または株主に損害を与える取締役会および監査役会による違反行為の検討、処分

(9) その他法令または定款に定める事項

書面投票 書面投票の場合、決議事項のいかんにかかわらず、65%以上で定款に定める割合の定款資本を有する社員の賛成が必要 書面投票の場合、決議事項のいかんにかかわらず、議決権総数の51%以上であって定款で定める割合の議決権を有する株主の賛成が必要

マジョリティ出資の場合の合弁契約書における留意点

総論

 2.ベトナム企業法に照らした「マジョリティ出資」の意味に記載した表のように、ベトナム企業法上、特別決議事項は会社の根本的事項を変更するような限定された事項に限られるので、マジョリティ出資によって普通決議事項の決定権を取得すれば、会社運営に関する基本的な事項(たとえば役員の選任、配当、事業計画、増資等)は、ほぼすべて、自らの意思のみで(マイノリティ出資者の意向にかかわらず)決めることができます

 そして、合弁契約書や株主間契約書の締結は、普通決議事項の決定権を有さないマイノリティ出資者が、法令上認められる権利を超えた権利を確保するためのプロテクションという側面がありますので、マジョリティ出資を行う立場からすれば、合弁契約書におけるマイノリティ出資者の権利は、可能な限り最小限にとどめることが望ましいといえます。

 もっとも、合弁パートナーとの契約交渉の過程で、マイノリティ出資者に対して拒否権を与えることになるケースも多いと考えられます。そのようなケースでは、拒否権の対象事項について意見の対立が解消できない場合にいわゆるデッドロック状態が生じることから、デッドロックの場合の対応方針について、あらかじめ契約で規定しておく必要があります。

 また、ベトナム企業法に基づく関係者間取引の規制により、合弁会社の出資者または株主と合弁会社との間の取引においては、法的に、マジョリティ出資者が議決権を持たないことになりますが、この点はマジョリティ出資者にとって見落とされがちな点であるため、留意が必要です。

 以下、これらの論点について、簡単な事例とともに解説します。

マイノリティ出資者に与える拒否権に関する留意点

事例

 日本企業Xは、ベトナムの現地パートナーであるYと、合弁会社Z(会社形態は2名以上有限会社)を設立した。Zへの出資比率は、Xは70%、Yは30%であるが、Yには、一定の規模を超える事業に関する契約の締結や配当、会社の解散等の一定の重要な経営事項に拒否権が与えられていた。当初の事業は順調であったが、次第にXとYの関係が悪化し、Yは特段の合理的理由なく拒否権を行使するようになった。その結果、事業に必要な契約の締結や配当が一切行えなくなり、また、会社の解散をすることもできず、デッドロック状態に陥って会社の運営がストップしてしまった。

マイノリティ出資者に与える拒否権に関する留意点

解説と対応策

 このようなケースを防ぐため、自社がマジョリティ出資者の場合には、マイノリティ出資者に与える拒否権はできるだけ最小限にとどめることが望ましいといえます。また、デッドロック状態に陥るケースを見据えて、マイノリティ出資者の株式を強制的に買い取ることができるコールオプションを合弁契約や株主間契約に規定しておくことにより、合弁パートナーとの間の紛争が生じた際には、コールオプションを行使して相手方の株式をすべて買い取り、これによってより早期の解決を図ることも考えられます(もっとも、相手方がベトナム企業の場合、実際にコールオプションを行使しなければならないような局面においては、コールオプションの行使要件や価格についても逐一争いの対象となり、また、執行の場面でも、ベトナム国内において法定の手続を経る必要もありますので、必ずしも日系企業が期待するスピード感で紛争解決に至るとは限りません。よって、契約書において、あらかじめ細かくコールオプションの行使要件や価格を規定し、また、紛争解決機関の選択にも注意を払っておくことが重要です。)。

 また、合弁事業の内容によっては、コールオプションの行使の結果、外資規制に抵触する可能性もありますので、あらかじめ、コールオプション行使後の出資比率に応じた外資規制を調査した上で、コールオプション行使の障害となる事業目的については当初から除外しておく、またはコールオプションの行使前に事業目的から削除することを合弁契約において合意することが考えられます。あるいは、自社が買い取りの主体になるのではなく、自社が指名する第三者に株式を売り渡す義務を合弁契約に規定すること等も考えられますが、この場合、自社にて、第三者(外資規制に抵触しないことを考えると、通常ベトナムの投資家になると考えられます)を探すことが必要になります。

関係者間取引

事例

 日本企業Xは、ベトナムの現地パートナーであるYと、合弁会社Z(会社形態は2名以上有限会社)を設立した。Zへの出資比率は、Xは70%、Yは30%である。
 Xが、Zとの間で製品販売契約およびサービス契約を締結しようとしたところ、承認機関であるZの社員総会において、Y出身の社員総会メンバーから、「XとZの間の契約の承認決議において、Xは議決権を有しない」との主張がなされた。Yからは特段の建設的な対案もなく、契約締結に反対されるのみであり、意図していた事業が実現できなくなってしまった。

関係者間取引

解説と対応策

 ベトナム企業法上、関係者間取引(その定義については以下の表もご参照ください)については、社員総会(有限会社の場合)、取締役会または株主総会(株式会社の場合)の承認を要するとされており、当該取引について利害関係を有する社員(有限会社の場合)または株主(株式会社の場合)は当該決議に加わることができないとされています。したがって、関係者間取引については、マジョリティ社員・株主であっても、当該取引について利害関係を有する場合には、決議に加わることができず、マイノリティ社員・株主のみの議決権の行使に基づく承認決議が行われることとなります。

①2名以上有限会社 ②株式会社
関係者間取引の定義に含まれる取引 会社と以下の者との間の契約:

(1) 社員、社員の委任代表者、社長または総社長、会社の法定代表者

(2) (1)に規定する者の「関係者」(企業法4条17号に定義。以下同じ。)

(3) 親会社の管理者、親会社の管理者を任命する権限を有する者

(4) (3)に規定する者の関係者

会社と以下の者との間の契約:

(1) 普通株式総数の10%を超える割合の株式を保有する株主、当該株主の代理人およびこれらの者の関係者

(2) 取締役、社長または総社長およびこれらの者の関係者

(3) 企業法159条2項に規定する企業

 確かに、出資者と会社との間の取引については、マジョリティ出資者の意思のみにより、会社に損害を与えるような不相当な条件での取引が行われやすいともいえ、マイノリティ出資者の保護という上記の規制の趣旨自体は理解できるものです。しかし、取引の当事者となっている出資者が利害関係者であるとして、一律に議決権を有しないという仕組みは、マイノリティ出資者のみに、合弁会社の運営にとり重要な事項の決定権を委ねることになり、必ずしも適切な結果が得られるとは限りません。ベトナムでは、ベトナム側がマイノリティ出資者、日本側がマジョリティ出資者である多くの事案で、日本側の出資者と合弁会社との間の取引が、マイノリティ出資者によって不合理に反対されたり、承認決議がなされずに放置される等の問題事例が発生しています。

 この点に関して、次善の策としては、たとえば、定款において、「利害関係を有しない株主または取締役は、当該議案が適法に設立された法人との間の、市場条件と比して不合理ではない条件の取引を承認することを内容とするものである場合には、法令に反しない限りでこれに賛成しなければならない」と規定する等の手当てを行うことが考えられます。このような規定は、裁判所等によってその有効性が検証されているものではなく(ベトナムにおいては、判例の法規範性や公開制度も先進国と異なり未だ発展途上にあります。)、最終的に紛争に発展した場合の有効性が確保されているとまでは言えないものの、定款の規定として有効と判断される可能性もあります。

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