取締役・従業員へのストック・オプションの付与手続き

コーポレート・M&A

 ストック・オプションを取締役に対して付与する場合の手続きはどのようなものでしょうか。また、従業員に対して付与する場合の手続きとでは、どのように異なるでしょうか。

 ストック・オプションを取締役に付与する場合には、新株予約権の第三者割当てにおける発行手続に加えて、報酬決議(会社法361条)が必要となります。他方、従業員に付与する場合には、このような報酬決議は必要ありませんが、労働基準法の適用のある従業員に付与する場合には、労働基準法24条、労働基準法89条1項10号等との関係で取り扱いに注意を要します。また、取締役に付与する場合と従業員に付与する場合とでは、事業報告への記載も異なります。

解説

目次

  1. 取締役に対してストック・オプションを付与する場合の手続き
    1. 報酬決議
    2. 新株予約権の発行手続
    3. 事業報告への記載
  2. 従業員に対してストック・オプションを付与する場合の手続き
    1. 新株予約権の発行手続
    2. 労働基準法との関係
    3. 事業報告への記載
  3. まとめ

取締役に対してストック・オプションを付与する場合の手続き

報酬決議

 取締役へのストック・オプションの付与は、職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益として、「報酬等」(会社法361条1項)に該当しますので、ストック・オプションを発行会社の取締役に付与する場合には、定款に別段の定めがない限り、その額または具体的な算定方法および具体的な内容を、株主総会決議により定める必要があります(会社法361条1項)。

 もっとも、かかる株主総会による報酬決議は、取締役全員に支給する報酬等の上限を定めれば足り、各取締役への具体的配分を、取締役会設置会社においては取締役会、それ以外の会社においては取締役の過半数の決定に委ねることも可能と解されています。また、一旦決議された年間の上限額の範囲内でストック・オプションを付与する場合には、毎年新たに報酬決議を経る必要はありません。  

新株予約権の発行手続

 発行会社の取締役へのストック・オプションの付与は、新株予約権の第三者割当てに該当しますので、新株予約権の発行手続が必要となります。

(1)公開会社の場合

 公開会社においては、有利発行に該当する場合を除き、取締役会決議により新株予約権の募集事項を定めることができます(会社法240条1項)。

 他方、有利発行に該当する場合は、株主総会の特別決議により、募集事項を定めるか、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任する必要があります(会社法238条2項、会社法239条1項、会社法240条1項、会社法309条2項6号)。

 さらに、公開会社において、新株予約権の割当により支配株主の異動が生じうる場合で、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主からの反対があったときは、原則として、株主総会の普通決議により、新株予約権の割当についての承認を得る必要があります(会社法244条の2第1項、5項)。

(2)非公開会社の場合

 非公開会社においては、株主総会の特別決議により、募集事項を定めるか、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任する必要があります(会社法238条2項、会社法239条1項、会社法240条1項、会社法309条2項6号)。

ストック・オプションを取締役に付与する場合

事業報告への記載

 公開会社においては、当該事業年度の末日において取締役が同社の新株予約権を有しているときは、取締役(社外役員を除き、執行役を含む)・社外取締役(社外役員に限る)の区分に応じて、区分ごとの当該新株予約権の内容の概要およびそれを有する人数を事業報告に記載しなければならないとされています(会社法施行規則123条1号)。

 加えて、公開会社では、当該事業年度に取締役に支払われた報酬等の総額および員数等を事業報告に記載することが要求されており(会社法施行規則121条4号)、取締役に付与されたストック・オプションについてもこれらの記載中に織り込まれることになります。

従業員に対してストック・オプションを付与する場合の手続き

新株予約権の発行手続

 役員ではない発行会社の従業員に対してストック・オプションを付与する場合、株主総会の報酬決議(会社法361条、会社法387条)は不要ですが、発行会社の従業員へのストック・オプションの付与は、新株予約権の第三者割当てに該当しますので、新株予約権の発行手続が必要となります(上記1-2参照)。

ストック・オプションを従業員に付与する場合

労働基準法との関係

(1)「賃金」の考え方

 ストック・オプション制度から得られる利益は、それが発生する時期および額ともに付与対象者の判断に委ねられているため、たとえストック・オプションが労働者に付与されたとしても、労働の対償ではなく、それゆえ、労働基準法11条の「賃金」にはあたらないとされています。従って、労働基準法の適用のある発行会社の従業員にストック・オプションを付与するに当たり、それを就業規則等に予め定められた賃金の一部として取り扱うことは、労働基準法24条に違反することになります(平成9年6月1日基発第412号)。そのため、労働基準法の適用のある発行会社の従業員に対してストック・オプションを付与する場合には、「賃金」とは別枠でこれを付与する必要がある(ストック・オプションの価値分を「賃金」から差し引くことは許されない)ことに留意が必要です。

 なお、ストック・オプション制度から得られる利益が労働基準法11条の「賃金」に該当しないとしても、労働者に付与されるストック・オプションは労働条件の一部といえることから、労働者に対してストック・オプションを制度として創設する場合には、労働基準法89条1項10号の適用を受け、就業規則に記載のうえで労働基準監督署に届け出る必要があります(平成9年6月1日基発第412号)。

(2)ストック・オプションの付与方法の法律構成における注意点

 ストック・オプションの付与方法の法律構成として相殺構成を採用し、使用者側から一方的に当該払込義務と付与対象者が発行会社に対して有する賃金債権とを相殺することは、賃金の全額払の原則との関係から、労働基準法24条1項に違反すると考えられます。

 もっとも、使用者が労働者の同意を得て行う相殺は、当該相殺が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が存在するときは、賃金の全額払の原則に反するものではありません最高裁平成2年11月26日判決・民集44巻8号1085頁参照)。また、労働者から行う賃金債権についての相殺も、賃金の全額払の原則には反しません。

 従って、相殺構成を採用する場合で、払込義務と付与対象者が発行会社に対して有する賃金債権とを相殺する場合には、付与対象者である労働者の同意を得て行うか、労働者から相殺権を行使してもらうといった対応をとることが考えられます。

 参照:「ストック・オプションの付与方法における相殺構成と無償構成

事業報告への記載

 公開会社において、当該事業年度中にその従業員に新株予約権を交付した場合には、新株予約権等の内容の概要・交付した者の人数が、事業報告に記載されます(会社法施行規則123条2号)。  

まとめ

 以上のように、ストック・オプションを取締役に付与する場合と従業員に付与する場合とでは、報酬決議(会社法361条)の要否や、労働基準法の報酬等の規定の適用の有無、事業報告への記載等が異なってきます。また、発行会社が公開会社か非公開会社か、当該ストック・オプションの付与が有利発行であるか否かによって、手続きには数多くのバリエーションが存在します。ストック・オプションを取締役や従業員に付与するにあたっては、どの規定が適用される場面であるのかを見極め、手続きに漏れがないよう注意する必要があります。

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