抽選でAmazonギフト券が当たる! 2018年の企業法務を振り返るアンケート実施中

特許権を侵害された場合の対処法

知的財産権・エンタメ

 当社の競合他社であるA社が販売している製品が、当社の保有する特許権を侵害している可能性がありそうです。このような場合、当社としてはどのような検討をし、また、どのような対応方針でA社に対して権利行使をすべきか教えてください。

 まず現に特許権を侵害しているのかを確認する必要があり、入手できるものであればA社の製品を入手してこれを分析して、侵害する可能性がどの程度あるのかを検討する必要があります。そのうえで、侵害している可能性が高いと判断する場合に、A社の販売等を差し止めたいのか、それとも特許権をライセンスしてライセンス料を獲得したいのかといった方針を定めます。さらに、具体的な権利行使の方法としては、当社からA社に対して警告書等の書面により特許権を侵害している旨とその要求事項を伝えますが、それでも応じない場合には、訴訟等の法的手続を行うことになります。

解説

相手方の製品の分析

 特許権の侵害可能性のある製品がある場合には、できればその製品を入手して分析する必要があります。ただし、実際には入手できない製品もありますので、その場合には、カタログやパンフレット、ウェブサイトなどその製品の内容が記載または推測できる資料を収集する必要があります。

 近時では、いわゆるクラウド型で提供されるサービスもあり、このようなサービス(プログラムや装置)が特許権を侵害するか否かを判断するにあたって、プログラムを入手して分析することができないものもあります。このような場合には、いろいろな値を入力して、これによって出力される結果から、そのような処理がなされているかを推測するということが一般的に行われます。

侵害可能性の判断

 次に、対象となる製品を分析した結果から、現に特許権を侵害しているか否かを検討することになります。特許権侵害の判断の仕方については、「特許権侵害の判断の仕方」をご参照ください。

 具体的な特許権侵害の判断手法としては、特許公報の「特許請求の範囲」の各「請求項」の記載された発明を、そのまとまりごとに「構成要件」に分説し、対象製品が、この分説された構成要件に記載の技術が存在するか(構成要件を充足するか)を検討するという手法がとられることが一般的です。特許請求の範囲に記載された構成要件と対象製品の構成を対比するために、表を作成することも行われ、このことを「クレームチャート」といいます。

 このように、「クレームチャート」を作り、また、特許請求の範囲に記載の各文言(構成要件)の解釈を行って、侵害可能性の判断を行うことになります。

対応方針の決定

特許権者が特許権を侵害している相手方に対して要求できること

 特許権を侵害しているという場合に、特許権者が、その特許権を侵害している相手方に対して要求できることとして、

  1. 製品の製造、販売等の差し止め
  2. 損害賠償請求
  3. 信用回復措置
  4. 刑事告訴

があげられます。

 このうち信用回復措置(特許法106条)は、特許権を侵害したことによって特許権者の業務上の信用を害した場合に謝罪広告等を行わせてその信用を回復するための権利ですが、一般的には特許権侵害によって信用を毀損される事例は少なく、これが検討されることは少ないといえます。また、特許権侵害は犯罪となりますが(特許法196条等)、実際に犯罪が成立するためには「故意」が必要となるところ、一般的には故意で特許権を侵害するという事例も少なく、刑事事件として取り上げられる可能性も低いため、刑事告訴という手段を講じることも極めてまれといえます。

 そのため、通常は、①相手方に対して製品等の製造・販売等の差し止めを求めるのか、②差し止めを求めることなく、特許権をライセンスして、将来の製品の製造・販売等に対してライセンス料を取得することを目指すのか、③また、過去の製品等の製造・販売等に対する損害賠償金の取得を目指すのか、といった方針を検討することが一般的です。

設問における対応方針の考え方

 設問との関係でいえば、A社は当社にとって競合他社であり、その製品の製造・販売等を中止できれば、自社製品のシェアを高めることにもつながるため、その製造・販売等の差し止めを求めるという方針となると考えられます。他方で、A社が仕様変更をすることで、当社の特許権を容易に回避でき、同等の機能を有する製品の販売を継続できるということであれば、競合他社の製品を市場から排除することはできませんので、むしろライセンス料を取得する方がメリットのある場合もあります。対応方針を定めるにあたっては、特許権の権利範囲の広さや対象となる製品の市場における状況などを勘案して決定していく必要があります。

 なお、逆に、A社が保有する特許権の中に、当社製品が侵害している可能性があるものが存在する場合には、あえて特許権に基づく権利行使をしないという場合もあります。当社がA社に対して特許権に基づく権利行使をすると、そのカウンターでA社から特許権に基づく権利行使がなされるリスクが高まり、いわば返り討ちに合ってしまう可能性があるためです。

権利行使の方法

警告書の送付

 そして実際に特許権に基づく権利行使を行うにあたっては、まず、警告書等の書面をA社に送付して、その書面の中で特定の製品が特許権を侵害していることを記載するとともに、その決定した対応方針に基づいて製品の製造・販売等の中止を求めたり、またはライセンスの準備があることを伝えたりして、相手方がこれらに応じる可能性がある場合には、交渉をして合意(和解やライセンス契約の締結)をすることを目指します。特に予告なく訴訟を提起することもありますが、あまり一般的とはいえません。

 しかしながら、A社が当社の要求に全く応じず、または交渉したけれども合意に至らなかったという場合には、次に法的手続を行わなくてはなりません。日本の裁判所に対する法的手続としては、(1)本案訴訟(通常訴訟)の提起と(2)仮処分申立て(保全手続)の2つの法的手続が用意されています。

本案訴訟と仮処分のメリット・デメリット

 仮処分については、一般論でいえば本案訴訟よりも短期に決着がつくとされており、また、いったん仮処分決定がなされるとこれに対する執行停止が事実上できませんので、早期に差し止めという目的を達成できるというメリットがあります。しかしながら、仮処分決定は、この執行停止が事実上できないことから、極めて強力な効果を生じさせるために、裁判所としてもその審理に慎重にならざるを得ません。

 そのため、特許権侵害に基づく仮処分申立については、本案訴訟と同様の審理がなされ、その審理期間も本案訴訟とそれほど変わらないというのが実務です。仮処分事件では損害賠償請求ができない結果、損害額がいくらになるのかという審理がないので、その分は本案訴訟よりも結論(判決・決定)が出るまでの期間は短いといえますが、その程度です。仮処分決定を得るためには、特許権者が担保を供託しなければならないなどのデメリットもあることから、近時では本案訴訟を選択することが一般的といえます。

メリット デメリット
本案訴訟 損害賠償請求が可能
  1. 終了までが比較的長期
  2. 訴訟費用が比較的高額
  3. 第一審判決に対して執行停止が容易(ただし、侵害者の担保の供託が必要)
仮処分
  1. 比較的早期に決着
  2. 仮処分決定に対して執行停止が困難(=早期の権利実現が可能)
  3. 申立費用が安い(2000円)
  1. 損害賠償請求が出来ない
  2. 差止決定に担保が必要
  3. 差止決定の後に(仮処分事件の抗告審、本案訴訟などで)侵害していないことが確定すると、損害賠償の支払義務が発生する

 なお設例とは離れますが、特許権を侵害する製品が海外で製造され、これが日本に輸入されているという場合には、関税法に基づく輸入差し止め申立を行うことも考えられます。この申立は、知的財産権のうち、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権および育成者権を有する者、または不正競争差止請求権者が、自己の権利を侵害すると認める貨物が輸入されようとする場合に、税関長に対し、当該貨物の輸入を差し止め、認定手続(侵害物品に該当するか否かを認定するための手続き)を執るべきことを申し立てる制度になります。

関連する実務Q&A

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する