抽選でAmazonギフト券が当たる! 2018年の企業法務を振り返るアンケート実施中

証拠保全の申立てがなされた場合の対応

訴訟・争訟

 つい先ほど、正午ころのことですが、当社の大阪支店に、裁判所の執行官という方が来られて、「証拠保全」という事件の記録を置いていったそうです。記録の中には、「期日呼出状」というものがあり、「検証期日」が本日の午後2時からと記載されています。執行官によれば、あと2時間弱のうちに裁判官が大阪支店にやってきて、社内文書を見させてもらう、というのですが、当社はこれに応じなければならないのでしょうか。そもそも、「証拠保全」とは何ですか。

 証拠保全とは、訴訟における本来の証拠調べに先立って裁判所が証拠調べを行う手続です。企業に対して証拠保全が申し立てられる場合は、社内文書の検証が目的とされることが多いですが、いかなる範囲で検証物を提示すべきかについては慎重な検討を要する一方、証拠保全の決定があったことを知ってから1時間ないし1時間半程度で必要な検討を行わなければならないことから、あらかじめ対応方針を決めておくことが重要です。

解説

証拠保全とは

 証拠保全とは、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」(証拠保全の事由。民事訴訟法234条)がある場合に、訴訟における本来の証拠調べの時期に先がけて、裁判所がその証拠の取調べを行い、その結果を保全する手続です。証拠保全の事由については、たとえば、ある証人が病身で余命いくばくもないとか、近く海外に渡航する予定で長期間帰国の見込みがない、あるいは、ある文書につき散逸、廃棄、改ざんのおそれがあるといった場合がこれに該当します。

 証拠保全は、かつては、医療訴訟を提起しようとする患者側が、相手方となる医療機関によるカルテ等の改ざんを防ぐために利用する例が多かったといわれますが、近時は、一般企業を相手方とし、その社内文書を入手して後の訴訟で証拠として利用することを目的とした証拠保全の申立ても増えているようであり、企業担当者にとって、あらかじめ証拠保全への対応方針を決めておくことはきわめて重要であるといえます。

証拠保全の手続

申立てから決定まで

 証拠保全の申立ては、書面により行います(民事訴訟法234条、民事訴訟規則153条1項)。訴えの提起前に証拠保全の申立てを行う場合、たとえば証拠調べの目的となる文書の所持者の居所や検証物の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所が管轄裁判所となります(民事訴訟法235条2項)。

 申立書には、申立ての趣旨(いかなる内容の証拠保全を求めるか。たとえば、検証による証拠保全の申立てであれば、検証場所や検証物の一覧)および申立ての理由(証明すべき事実および証拠保全の事由)が記載されます。裁判所は、申立書の記載内容や、申立書に添付された疎明資料を確認し、証拠保全の事由があると認めるときは、証拠保全の決定を行います。

決定書謄本等の送達から裁判官らの臨場まで

 証拠保全決定が行われると、裁判所から相手方に対し、決定書謄本、証拠調期日の呼出状、申立書副本・疎明資料等が送達されます。送達の方法としては、通常の訴訟における訴状のような郵便による送達ではなく、執行官による送達(裁判所の執行官が自ら目的地に赴き、書類を交付する)の方法が採られることが多いのが証拠保全の特徴です。そして、これがきわめて重要ですが、文書の改ざんのおそれ等が証拠保全の事由とされる証拠保全の場合、相手方に改ざんの時間的余裕を与えないため、上記送達は、証拠調期日とされた日時の1時間ないし1時間半前のタイミングを見計らって行われます。つまり、相手方からすれば、証拠保全の決定があったことを知ってから1時間ないし1時間半の間に、必要な準備を行わなければならないということです。

 証拠保全決定の主文に記載された時刻になると、裁判官、裁判所書記官、申立人代理人弁護士等が主文記載の場所にやってきます。なお、証拠調べの対象を撮影するためのカメラマンが同行する場合もあります。

証拠調べの実施

 証拠保全における証拠調べは、実務上、検証(民事訴訟法232条)によることが非常に多いといわれています。検証とは、裁判官が、その五感の作用により検証物の性状等を感得し、その判断内容を証拠とする証拠調べの方法のことをいいます。

 裁判官は、まずは相手方(の立会人)に対し、検証物を任意に提示するよう求め、提示された場合は、その検証物を五感の作用により感得する、要するに見たり触ったりすることで、検証を行います。たとえば検証物が文書である場合は、ステープラー等による編てつの状況がどうなっているか、修正液等による修正の跡がないか、手書き部分につきインクの色が異なるところがないか等をチェックすることになります。その結果を裁判官は裁判所書記官に口授し、裁判所書記官はこれを記録して、検証調書を作成します。なお、検証物たる文書は、コピーや写真撮影によって記録化され、検証調書に添付されます(民事訴訟規則78条、69条)。また、裁判官は、検証物を裁判所に持ち帰るべく、留置命令(民事訴訟法232条1項、227条)を出すこともあります。ただし、この留置命令は、検証物の提出を物理的に強制するようなものではありません。

 相手方が検証物を任意に提示しない場合、裁判所は口頭で検証物提示命令(民事訴訟法232条1項、223条)を出すことがあります。検証物提示命令にも物理的な強制力はありませんが、これに従わなかった場合は、後の訴訟において、検証物の性状に関する申立人の主張が真実であると認められたり、検証により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、その事実に関する申立人の主張が真実であると認められるおそれがあります真実擬制。民事訴訟法232条1項、224条1項、3項)。

証拠保全の相手方とされた場合の対応についての留意点

裁判官らの臨場までの対応

 前記2-2記載のとおり、証拠保全の相手方に決定書謄本等が送達されてから裁判官らが臨場してくるまでに時間的猶予はわずかしかなく、相手方としては、とにかく迅速に対応しなくてはなりません。

 まずは、証拠調べ(検証)を行う場所を確保する必要があります。たとえば、顧客の目にふれるところで検証が実施されるようなことになると営業に支障が生じるでしょうから、人目につかないよう、会議室など(10名程度が入れるスペース)を空けておくべきです。

 また、相手方(企業)側で検証に立ち会う者を決めなければなりません。一般的には、臨場先となった施設の責任者や、(証拠保全が申し立てられる場合は、何らかの紛争が背景に存在すると思われるところ、その)紛争事案の関連部署の責任者、総務・法務担当者等が、立会人の候補として考えられます。なお、顧問弁護士等の予定を押さえられれば、立会いを求めることも検討すべきでしょう(もっとも、設例のように、本社からは離れた地域の拠点が検証場所とされた場合、誰を立ち会わせるかについては自ずと限界もあり、その意味では、誰が立ち会ってもある程度統一的な対応ができるよう、対応マニュアル等をあらかじめ制定しておくことが有益です)。

 さらに、決定書謄本記載の検証物(謄本別紙の検証物目録に列挙された検証物)の所在も確認しておくべきです。ただし、後記のとおり、その検証物を提示しないという可能性もある以上、確保した検証場所にあらかじめ検証物を運び込んでおくことは、避けた方がよいと思われます。

検証物の任意提示の要請への対応

 裁判所から検証物を任意に提示するよう求められた場合にも、あくまでも任意提示の要請ですから、相手方としては、これを拒絶することも可能です

 もちろん、その場合には検証物提示命令が出される可能性があるわけですが、この命令については、即時抗告(民事訴訟法232条1項、223条7項)によって争うことができる場合があります。たとえば、文書提出義務(民事訴訟法220条)のない文書(もっぱら自己の利用のみに供するために作成された文書や、職業の秘密が記載された文書)についての検証物提示命令は出されるべきではないと一般に解されているため、かかる文書についての検証物提示命令に従わないことには、正当な理由が認められ得ると考えられます。

 したがって、相手方としては、検証物の任意提示の要請があった場合、仮にその検証物につき提示命令が出されたときに即時抗告で争うことができるかを検討し、できると解されるようであれば、その旨も裁判官に伝えたうえで、提示を拒絶することもあり得ます。もっとも、提示することに特段の支障がないような文書であれば、後の訴訟で「痛くもない腹を探られる」ことは避けるべく、要請に応じて任意提示を行う方が望ましいといえるでしょう。

検証物提示命令への対応

 相手方において検証物を提示しないことに正当な理由がある旨を伝えたにもかかわらず、裁判官から検証物提示命令が出された場合は、即時抗告を申し立てるべきことになります。ここで、即時抗告は、命令の告知を受けた日から1週間以内に(民事訴訟法332条)、書面により行う必要があるため(民事訴訟法331条、286条1項)、証拠保全における証拠調べの当日に、口頭で即時抗告を申し立てる旨述べたとしても、即時抗告がなされたことにはなりません。そのため、裁判官は引き続き、検証物提示命令に従って検証物を提示するよう求めてくるかもしれませんが、その際は、後日即時抗告を申し立てる(抗告状を裁判所に提出する)つもりであることを述べたうえで、(提示拒絶に正当理由ありと考える以上は)あくまでも提示は拒絶するという対応になるものと思われます。

関連する実務Q&A

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する