公正取引委員会による独占禁止法違反事件の調査はどのように行われるのか

競争法・独占禁止法
宮本 聡弁護士

 「公正取引委員会がカルテルの疑いが強まったとして独占禁止法違反の疑いで◯◯社を立入検査した。今後、関係者から事情聴取する方針」との報道を目にすることがあります。カルテル等の疑いに関する公正取引委員会の立入検査に際して、留意点があれば教えてください。また、立入検査後の公正取引委員会による処分までの流れを教えてください。

 公正取引委員会による立入検査(独占禁止法47条1項4号)は、行政調査として行われる訪問であり、強制的行政調査の一種です。通常、立入検査は不意打ち的に開始され、かつ、1~2日という短期間で完了しますが、結果として大量の証拠資料が公正取引委員会に提出されますので、公正取引委員会にとって重要な証拠収集の手段となっています。

 不意打ち的に開始される立入検査の性質上、事前の準備なくして適切に立入検査に対応することは困難であり、常日頃から立入検査についての対応マニュアルの作成や対応方針の周知を図ることが重要となります。また、現場が立入検査の事実を把握した際には、早急に現場から法務部ないし弁護士にコンタクトできるようにしておく必要があります

 立入検査等の後あるいはこれと同時に、事情聴取等の方法による公正取引委員会の調査が行われます。調査後、嫌疑を受けている事業者は意見聴取の機会を与えられ(独占禁止法49条以下)、公正取引委員会はこの意見聴取の結果を踏まえて排除措置命令および課徴金納付命令の可否・内容を判断することになります(独占禁止法60条)。

解説

目次

  1. 公正取引委員会による行政調査
    1. 立入検査
    2. 出頭要請・事情聴取
    3. その他の調査手法
  2. 意見聴取手続
  3. 行政調査と犯則調査との違い

公正取引委員会による行政調査

 公正取引委員会がカルテル等の独占禁止法違反事件について排除措置命令や課徴金納付命令を行うか否かを判断するために行う調査は「行政調査1と呼ばれます。公正取引委員会は、行政調査を実施するため、主に以下の1-1から1-3の権限を認められています(独占禁止法47条1項)。

立入検査

(1)立入検査とは

 立入検査とは、公正取引委員会が事件について必要な調査を行うため、事件関係人の営業所やその他必要な場所に立ち入り、業務および財産の状況、帳簿書類その他の物件を検査すること(独占禁止法47条1項4号)をいいます。

 立入検査は、行政調査としての訪問であり、立入りの対象となる事業者には、調査応諾の義務が課され、その履行が罰則(1年以下の懲役または300万円以下の罰金(独占禁止法94条))によって担保されている点で間接的な強制力を持っています。

 通常、公正取引委員会は、関係各所に対する立入検査を不意打ち的に行うことにより、事件関係者(事前に課徴金減免申請をしている関係者を除く)からの証拠収集など、本格的な調査に着手します。この立入検査が契機となってマスコミ報道等がなされ、事件が広く世に知れることになります。また、公正取引委員会による最初の立入検査が行われた日は「調査開始日」となり、課徴金減免制度との関係で重要な意味を持ちます(課徴金減免制度については「課徴金減免制度(リニエンシー/leniency)とは」をご参照ください)。

(2)立入検査の目的

 通常、立入検査は、被疑事業者の複数の営業所等の拠点において、「一斉」かつ「不意打ち的に」開始されて、1日がかりで行われ、1日(ないし2日)という短期で完了します。立入検査に際しては、大量の資料について提出命令が発せられ、公正取引委員会がその資料を持ち帰る(留置する)のが通常であるため、公正取引委員会にとって重要な証拠収集の手段となっており、その主な目的は証拠の保全・収集にあるといえます。なお、事案によっては、初回の立入検査から一定の期間を置き、2回目の立入検査が実施されることもあります。

(3)立入検査に対応する際の留意点

 公正取引委員会による立入検査に際しては以下のような対応事項や問題点が生じ、その場での判断・対応を求められます。

    (調査全体に関する事項)
  • 行政調査か犯則調査かの見極め
  • 被疑事実の確認

  • (証拠に関する事項)
  • 社内への証拠保全の通達
  • 依頼者弁護士間の通信に関する資料の提出の是非
  • 事業活動に必要な証拠物件のコピー

  • (課徴金減免申請の要否や社内調査との関係で優先度を考慮すべき事項)
  • 立入検査時に関係者に任意の事情聴取要請があった場合の対応

 以上の点については、不意打ち的に開始される立入検査の性質上、事前の準備なくして適切に立入検査に対応することは困難であり、常日頃から立入検査についての対応マニュアルの作成や対応方針の周知を図ることが重要となります。

 また、仮に事前にマニュアル等を作成していたとしても、法的素養を持たない営業部門等による対処には限界があるため、法務部や弁護士による対処が望まれます。そこで、立入検査の事実を把握した後は、早急に現場から法務部ないし弁護士へのコンタクトが必要となります

(4)法務部・弁護士への連絡

 立入検査に際しての法務部や弁護士による現場への立会いは認められています2 。もっとも、証拠隠滅の防止等の観点から、審査官が現場にて社内または社外への連絡等を慎むように要請することも想定されます。しかしながら、自社の法務部や外部の弁護士への連絡については通常、証拠隠滅のおそれがあるとは考えられませんので、審査官に法務部や弁護士への連絡である旨を説明して理解を得る必要があります。

出頭要請・事情聴取

 公正取引委員会は、通常、立入検査による証拠の収集に続き(あるいは並行して)関係者からの事情聴取を行います。これに関して、公正取引委員会は、関係者に出頭を命じて聴取する(審尋)権限を有しています(独占禁止法47条1項1号)が、多くの場合、公正取引委員会は、任意の形で供述聴取を行います。

 設例における「今後、関係者から事情聴取する方針」というのも、このような出頭要請・事情聴取を意味します。事情聴取が行われた際は、必要に応じて供述調書が作成され、違反事件に関する証拠となりますので、事情聴取に臨むにあたっては、法務部や弁護士と事前に打合せを行い、事情聴取の法的位置づけや留意点について確認をしておく必要があります。

その他の調査手法

 公正取引委員会は、事件について必要な調査をするため、帳簿書類やその他の物件の所持者に対し、当該物件の提出を命じ(提出命令)、または提出物件を留めて置く(留置)権限を有しています(独占禁止法47条1項3号)。
 公正取引委員会は、立入検査の際に発見された物件についてその場で提出を命じ留置する手続を取るのが一般的ですが、公正取引委員会が提出を命じ、物件を留置する場面は立入検査時に限られません。

 また、公正取引委員会は、事件調査に必要な情報について事業者等に報告を求める(報告命令)権限も有しています(独占禁止法47条1項1号)。

意見聴取手続

 行政調査後、嫌疑を受けた事業者は、排除措置命令および課徴金納付命令を受ける前に、意見聴取の機会を与えられます(独占禁止法49条以下)。この意見聴取手続は平成25年の独占禁止法改正により新たに導入された制度であり、手続は公正取引委員会が指定する、当該事件に関与したことのない意見聴取官の主宰により行われます(独占禁止法53条)。意見聴取手続の流れは以下のとおりです。

 まず、公正取引委員会は、命令の名宛人となることが見込まれる事業者に、排除措置命令書(案)および課徴金納付命令書(案)を提示します。当該事業者は、意見聴取の通知があった時から意見聴取が終結するまでの間、公正取引委員会が認定に用いた証拠を閲覧・謄写することができます。当該事業者は、意見聴取の期日において、①行政調査を担当した審査官により命令の内容の説明を受ける機会、②審査官への質問の機会、および③証拠等を提出し、意見を述べる機会を与えられます(独占禁止法50条、52条ないし56条)。

 意見聴取官は、意見聴取期日ごとに意見聴取調書を作成し、意見聴取が終了した後は意見聴取の内容をまとめた報告書を作成し、これらを公正取引委員会に提出します(独占禁止法58条)。公正取引委員会はこれらの調書および報告書を十分に参酌したうえで(独占禁止法60条)、当該事業者に対する排除措置命令および課徴金納付命令の可否・内容を判断することになります。

出典:公正取引委員会「審査手続・意見聴取手続

行政調査と犯則調査との違い

 刑事事件となることが想定されているかどうか、という点が行政調査と犯則調査との大きな違いです。すなわち、犯則調査とは、独占禁止法違反事件のうち犯則事件(私的独占および不当な取引制限等に関する事件)について、公正取引委員会がこれを刑事告発する必要があるか否かを調査するために行うものです。公正取引委員会は、調査のため必要があるときは、裁判官の令状を得て臨検・捜索・差押えを行うことができます(独占禁止法102条)が、行政調査の場合はこの権限は認められていません。また、犯則調査を行う主体は、公正取引委員会の指定を受けた「犯則事件調査職員」(独占禁止法101条1項、公正取引委員会の犯則事件の調査に関する規則2条)となります。(犯則調査については「独占禁止法違反事件に関する刑事処分および司法取引制度」をご参照ください)。


  1. 従来、公正取引委員会による行政調査は「審査」と呼ばれるのが一般的でした。しかし、平成17年の独占禁止法改正により、公正取引委員会に犯則調査権限が付与されると、犯則調査との対比で、従前「審査」と呼ばれていたものは「行政調査」とも呼ばれるようになりました。本稿では犯則調査との対比での分かりやすさを優先し、「審査」ではなく「行政調査」という用語を用いています。 ↩︎

  2. 弁護士の立会いについて、公正取引委員会は「立入検査の円滑な実施に支障がない範囲で弁護士の立会いを認める」としています(参照:公正取引委員会「独占禁止法審査手続に関する指針」第2 事件調査手続 1 立入検査(5)立入検査における弁護士の立会い)。 ↩︎

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