海外勤務者に関する税務上の問題点

税務

 当社の社員を海外で勤務させる場合、滞在期間等によって所得税はどのように変わるのでしょうか。租税条約や短期滞在者免税、外国税控除制度との関係についても教えてください。

 所得税は、「居住者」であれば国内源泉所得と国外源泉所得の両方に課税されるのに対し、「非居住者」については国内源泉所得のみ課税されます。海外で勤務させる社員は、予定期間があらかじめ1年未満とされている場合を除き、「非居住者」となります。

 「居住者」について、勤務先の国が租税条約締結国であれば、一定の要件を満たすことで「短期滞在者免税」(「183日ルール」)が適用され、勤務先の国での申告納税が免除されます。短期滞在者免税が適用されない場合、国際的な二重課税を調整するため、外国税額控除の制度を利用することとなります。
 「非居住者」については、国内源泉所得に対して20.42%の源泉徴収税率が一律に課せられることとなります。

解説

目次

  1. 居住者と非居住者の区別
    1. 居住者と非居住者による課税対象の相違
    2. 「居住者」と「非居住者」の区別
  2. 居住者に対する課税の仕組み
    1. 租税条約締結国で短期滞在者免税の適用がある場合
    2. 短期滞在者免税の適用がない場合
  3. 非居住者に対する課税の仕組み

居住者と非居住者の区別

居住者と非居住者による課税対象の相違

 社員を海外で勤務させる場合、当該社員が所得税法上の「居住者」か「非居住者」のいずれに該当するかにより、課税される所得が異なります。

 すなわち、日本国籍を有する「居住者」については国内源泉所得(国内での勤務に伴う所得)および国外源泉所得(国外での勤務に伴う所得)のいずれについても課税されるのに対し、「非居住者」については国内源泉所得についてのみ課税されることとされています(所得税法5条2項、7条1項3号)。

居住者と非居住者による課税対象の相違

「居住者」と「非居住者」の区別

 「居住者」とは、「国内に住所を有し、または現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。」(所得税法2条1項3号)とされ、「住所」とは個人の生活の本拠をいうものとされています(東京高裁昭和59年9月25日判決)。

 もっとも、「住所」の所在については、「その者が国内において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有する」場合には国内に住所を有する者(居住者)と推定され(所得税法施行令14条1号)、「その者が国外において、継続して一年以上居住することを通常必要とする職業を有する」場合は国内に住所を有しない者(≒非居住者)と推定されます(所得税法施行令15条1号)。

 そのため、海外勤務を行う社員は、当該勤務の予定期間があらかじめ1年未満とされている場合を除き、「非居住者」ということになります。

 なお、海外での勤務期間が途中で変更されたことにより「居住者」と「非居住者」の区分に変更が生じる場合であっても、事後的に遡って訂正する必要はありません。

居住者に対する課税の仕組み

租税条約締結国で短期滞在者免税の適用がある場合

 上記1のとおり、居住者については国内源泉所得および国外源泉所得のいずれについても課税されることになるところ、海外勤務期間中の所得(国外源泉所得)については勤務先の国でも課税されることとなるのが原則です。この場合、一つの所得に対して二重で課税される事態が生じることとなります。

 「租税条約」は、このような二重課税の除去のほか、脱税および租税回避等への対応を通じ、二国間の健全な投資・経済交流の促進にするものとして、OECD加盟国を中心に多くの国・地域との間で締結されています。

 参照:財務省「我が国の租税条約ネットワーク

 そして、「租税条約」の中には、「短期滞在者免税」(いわゆる「183日ルール」)が定められており、一般に、以下の要件を満たす場合、勤務先の国での申告納税が免除されることとなります。  

  1. 他方の国に滞在する期間が合計183日(※)を超えないこと
    (※日数については若干の例外あり)
  2. 報酬が他方の国の居住者でない雇用者またはこれに代わる者から支払われるものであること
    (日本の親会社等が給与の支払いをしていること)
  3. 報酬が他方の国の居住者でない雇用者またはこれに代わる報酬が他方の国に存在する雇用者の恒久的施設によって負担されるものでないこと
    (勤務先の国の子会社等の給与負担がないこと)

 なお、①の183日のカウントについては、(ⅰ)課税年度ごとに判定する国(中国、韓国、ドイツ、ベトナム等)と(ⅱ)連続する12か月間で判定する国(アメリカ、イギリス、フランス、シンガポール等)に分かれています。

 このことは、たとえばある年の10月1日から翌年の4月末日まで計212日間海外に滞在した場合、前者の(ⅰ)であれば、どちらの年でみても183日以下(92日と120日)であるため、短期滞在者免税の適用があるのに対し、後者の(ⅱ)であれば、通算して183日を超えることから、短期滞在者免税の適用がありません。

租税条約締結国で短期滞在者免税(いわゆる「183日ルール」)の適用の可否

 参照:財務省「各国との租税条約の内容


 短期滞在者免税を受けようとする場合、「租税条約に関する届出書」を勤務先の国の税務当局に提出する必要があります。

短期滞在者免税の適用がない場合

 居住者で短期滞在者免税の適用がない場合、原則どおり、海外勤務期間中の所得(国外源泉所得)については勤務先の国でも課税されることとなります。

 もっとも、国際的な二重課税を調整するため、外国税額控除の規定が設けられています(所得税法95条)。

 参照:国税庁 タックスアンサー「居住者に係る外国税額控除」

(1)外国税額控除の計算方法

 外国税額控除においては、「所得税の控除限度額」(※1)の範囲内で、外国所得税の額をその納付することとなる年分の所得税の額から差し引くことができます。

 ※1 所得税の控除限度額=当該年の所得税額×(当該年の国外所得総額/当該年の所得総額)

 また、外国での所得税率が日本より高く、所得税の控除限度額を超過する場合には、「復興特別所得税の控除限度額」(※2)の範囲内で、当該超過額をその年分の復興特別所得税額から差し引くことができます。

 ※2 復興特別所得税の控除限度額=当該年度の復興特別所得税額(当該年の国外所得総額/当該年の所得総額)

(2)外国税額控除の繰越控除

①控除対象外国所得税の額が控除限度額を超える場合

 過去3年以内の所得税の控除限度額のうちの「繰越控除限度額」を限度として、その超える部分の金額をその年分の所得税の額から控除することが可能です。

控除対象外国所得税の額が控除限度額を超える場合

出典:国税庁 タックスアンサー「居住者に係る外国税額控除
②控除対象外国所得税の額が所得税の控除限度額に満たない場合

 その年の控除額の残額を限度として、過去3年以内に納付することとなった控除対象外国所得税(二重課税分)のうちの「繰越控除対象外国所得税額」を、その年分の所得税の額から控除することが可能です。

出典:国税庁 タックスアンサー「居住者に係る外国税額控除

(3)外国税額控除を受けるための手続き

 外国税額控除の適用を受ける場合には、以下の書類を確定申告書等に貼付する必要があります。

  1. 外国税額控除に関する明細書
  2. 外国所得税を課されたことを証する書類
  3. その税が外国所得税の対象となる外国所得税に該当することについての説明を記載した書類
  4. ③の税を課されたことを証するその税に係る申告書の写しまたはこれに代わるべきその税に係る書類およびその税がすでに納付されている場合にはその納付を証する書類など

非居住者に対する課税の仕組み

 上記1のとおり、非居住者については国内源泉所得のみについて課税されることとなり、源泉徴収税率は一律20.42%となります。

 なお、海外で勤務させる社員に対して、国内源泉所得に該当する給与を現地国通貨で支払う場合には、原則として支払期日における電信買相場(TTB)で日本円に換算したうえで行うこととなります。

 参照:国税庁 タックスアンサー「源泉徴収義務者・源泉徴収の税率

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