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債務の履行の見込みのない会社分割は認められるのか

コーポレート・M&A

 当社は、不採算部門を切り離して他の会社に承継させる会社分割を予定していますが、当該不採算部門を承継する会社においては、会社分割後、債務が履行できなくなってしまうおそれがあります。このように会社分割後の会社について債務の履行の見込みがないような場合でも、会社分割は認められるのでしょうか。

 いわゆる「債務の履行の見込み」がない会社分割であっても、会社法上は無効とはならないと考えられます。もっとも、会社分割後における債務の履行の見込みに関する事項を事前備置書類に記載する必要があり、また、債権者から異議が述べられた場合には弁済等を行う必要があります。

 また、ご質問のケースとは逆に優良部門を切り離すことで分割会社の債務の履行の見込みがなくなるような場合には、詐害行為取消権等の対象となり得るといった点にも留意が必要です。

解説

債務の履行の見込みがあることは会社分割の効力要件か

旧商法における考え方

 旧商法下では、会社分割により事業を切り出す会社(分割会社)、会社分割により営業を承継する会社(承継会社)、会社分割により新設される会社(設立会社)のいずれにおいても、会社分割の事前開示書類として「債務ノ履行ノ見込アルコト及其ノ理由ヲ記載シタル書面」が要求されていました(旧商法374条の2第1項3号、374条の18第1項3号)。

 また、新設分割の事案ですが、「分割会社が負っていた債務を分割計画書の記載に従って設立会社が承継する場合においても、分割会社が同債務を負う場合においても、その履行の見込みがない限り、会社分割を行うことができない」と判示した裁判例もありました(名古屋地裁平成16年10月29日判決・判時 1881号122頁)。

 このように、旧商法下においては、債務の履行の見込みがあることは会社分割の効力要件であり、債務の履行の見込みがない会社分割は、会社分割の無効原因になると考えられていました。

会社法における考え方

 一方、会社法下においては、会社分割の事前開示書類における記載事項は、債務の履行の見込みが「あること」ではなく、「債務の履行の見込みに関する事項」とあらためられました(会社法施行規則183条6号、192条7号、205条7号)。当該改正について、立法担当者等によれば、債務の履行の見込みは将来に対する予測であるから、債務の履行の見込みがあることを効力要件とすると法的安定性が害される一方、債権者保護手続および詐害行為取消権によって債権者は別途保護されると説明されています(相澤 哲編著『別冊商事法務300号 立案担当者による新会社法関係法務省令の解説』137頁(商事法務、2006))。

 以上のとおり、異なる見解もありますが、債務の履行の見込みがあることは会社分割の効力要件ではなく、債務の履行の見込みがないことは会社分割の無効原因にはならないと解されます。


【旧商法と会社法の見解】

債務の履行の見込みがある 債務の履行の見込みがない
旧商法 会社分割の効力要件 会社分割の無効原因
会社法 会社分割の効力要件ではない 会社分割の無効原因ではない
➡️債権者保護手続および詐害行為取消権によって債権者は別途保護される

事前開示書類の記載および株主総会における説明

 前記1のとおり、会社分割の事前開示書類において、①新設分割の場合、分割会社は分割会社および設立会社の、②吸収分割の場合、分割会社は分割会社、承継会社は承継会社の、会社分割の効力発生日以後における「債務の履行の見込みに関する事項」を記載する必要があります(会社法施行規則183条6号、192条7号、205条7号)。この点、債務の履行の見込みがない場合は、「債務の履行の見込みがない」旨、記載せざるを得ないと思われます。

 また、吸収分割後の承継会社において債務の履行の見込みがないというケースは、吸収分割の対象となる資産・債務の純資産価値がマイナスである場合に生じることが多いものと考えられます。このように吸収分割の対象となる資産・債務の純資産価値がマイナスである場合、承継会社の取締役は、吸収分割を承認する株主総会でその旨を説明しなければならないとされています(会社法795条2項)。

 以上のように、債務の履行の見込みに関しては、株主や債権者等への情報開示が要求されています。

債権者からの異議

 会社分割において異議を述べることができる債権者は、以下の3種類です。

  1. 分割会社の債権者のうち、会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる者(会社法789条1項2号、810条1項2号)
  2. 分割会社が分割対価である株式等を株主に分配する場合における分割会社の債権者(会社法789条1項2号、810条1項2号)
  3. 承継会社の債権者(会社法799条1項2号)

 会社分割の当事会社は、これらの債権者が存在する場合には、公告、催告といった方法で債権者保護手続を実施する必要があります(会社法789条2項、799条2項、810条2項)。

 そして、債権者が異議を述べた場合には、当事会社は、会社分割を実行しても当該債権者を害するおそれがない場合を除き、当該債権者に対して、債務を弁済し、もしくは相当の担保を提供し、または当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(会社法789条5項、799条5項、810条5項)。

 この点、会社分割により債務の履行の見込みがなくなる会社については、「会社分割を実行しても債権者を害するおそれがない」とは言えませんので、債権者から異議が述べられた場合には、当該債権者に対して、上記の通り、債務の弁済や担保提供等の措置を講じる必要があると考えます。  

詐害行為取消権等

 設問の例のように不採算部門を切り離すケースとは逆に、たとえば、債務超過の状態にあるような会社が優良部門のみを切り離すケースでは、当該優良部門を承継した承継会社または新設会社においては債務の履行の見込みがある一方、分割会社については会社分割後において債務の履行の見込みがないような場合も想定されます。

 このようなケースでは、分割会社が分割対価である株式等を株主に分配する場合を除き、分割会社の残存債権者は、前記の3のように会社分割において異議を述べることはできません。しかし、このようなケースでは、分割会社の残存債権者が害されるおそれがあり、会社分割について、民法上の詐害行為取消権(民法424条)または破産法、民事再生法、会社更生法上の否認権の対象となる可能性があります。

 さらに、会社分割が分割会社の残存債権者を害するものであり、その旨を、吸収分割の場合には分割会社と承継会社の双方が、新設分割の場合には分割会社が認識していた場合には、残存債権者は、吸収分割の場合は承継会社が、新設分割の場合は設立会社が分割会社から承継した財産の価額の限度で、承継会社または設立会社に自己の債権の履行を請求することができます(会社法759条3項、4項、764条3項、4項)。

 したがって、分割会社につき、会社分割後において債務の履行の見込みがないような場合においては、会社分割につき詐害行為取消権または否認権が行使され無効となるリスクや、分割会社の残存債権者から承継会社または設立会社に対して自己の債権の履行を請求されるといったリスクが存在します。

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