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ロシア企業との契約における紛争解決方法の選択

国際取引・海外進出
松嶋 希会弁護士

 ロシア企業との契約では、紛争解決方法はどのように定めるべきでしょうか。

 一般的に、クロスボーダー取引では、仲裁、特に第三国での仲裁が適切な紛争解決方法として選択されており、日本企業とロシア企業の取引でも同様です。ロシアの個別事情として、外国判決の執行が認められる範囲が狭い、または、不確実性が高いということもあり、日本での裁判を含めて、ロシア国外での裁判による解決は避け、仲裁を利用することが推奨されます。一方で、仲裁の利用が制限される場合があるので注意を要します。

解説

外国判決の承認・執行

 現行ロシア法上、外国判決がロシアにおいて承認・執行される場合とは、①判決を出した裁判所の所在国とロシアとの間で、お互いの国の判決を承認・執行することを合意している二国間条約や多国間協定がある場合、または、②ロシア法が特別に認める場合です(民事訴訟法409条1項、商事訴訟法241条1項)。

 条約としては、CIS諸国・元CIS諸国(ソ連邦を構成していた国々)との間で締結されているキエフ条約やミンスク条約があります。
 二国間協定は、バルト三国、ポーランド、ブルガリア、ギリシャ、キプロス、スペイン、ベトナム、アルゼンチン、エジプト、中国、キューバなどと締結されています。イギリスや日本とは締結されていません。
 外国判決の承認・執行を特別に認める法律としては、ロシア倒産法があります。ロシア倒産法は、条約がない場合、相互保証に基づき、倒産事件に関する外国判決の承認・執行が可能であることを定めています(倒産法1条6項)。

 訴訟法の抜本的な改正議論において、倒産事件に限らず一般的に相互保証に基づく外国判決の承認・執行を認める改正案が出されていますが、2018年6月現在、改正議論は留まっており、改正案が採択されるかはわからない状況です。

日本判決の承認・執行

 現行法下では、ロシアと条約を締結していない国、たとえばイギリスや日本の裁判所が出した判決はロシアでは執行できないということになります。

 しかし、実務では、ロシアの裁判所が、条約を締結していない国の判決の執行について、相互保証を理由に認めている例が存在します(条約がないことを理由に認めない例もあります)。
 日本判決については、2016年・2017年にロシアでの承認・執行が争われ、最終的には認められている事例があります(2017年1月30日付最高裁判所決定第A59-954/2016号事件)。しかし、この事件では、第一審から最終となった第三審では正面から相互保証は引用されず、第一審・第二審が外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)を、第三審が欧州人権条約を引いており、これらの裁判所の解釈判断に対しては疑問が呈されています。

 このように、現状、条約が締結されていない国で出された判決の承認・執行については、裁判官の個別判断に基づいており、裁判所の統一的なアプローチは確立されていません。ロシアと条約を締結していない日本の判決がロシアで執行されうるかは不確実であり、日本での裁判は避けることが望ましいといえます。

仲裁を選択する際の留意点

 ロシア企業との契約の紛争解決方法として仲裁を選択する場合に留意すべき点があります。3-1と3-2の点は、主にロシア企業を所有する場合または所有しようとする場合に関係します。一般的な物品売買、サービス提供や技術援助といった取引では、3-3の点を留意しておく必要があります。

ロシア法が明確に仲裁性を否定している紛争

 ロシア法が明確に仲裁性を否定している紛争があり、かかる紛争について仲裁判断を取得したとしても、ロシアでの執行は認められません。たとえば、ロシア会社の株主総会・出資者総会の招集に関する紛争、ロシア有限責任会社の持分の譲渡契約に対する公証人認証に関する紛争や、上場株式会社の30%を超える株式の取得に関する紛争です。

ロシアの常設仲裁機関による仲裁に限り認められる紛争

 ロシア法上、仲裁性は否定されていないものの、ロシアの常設仲裁機関による仲裁に限り認められる紛争があります。かかる紛争につき外国仲裁判断を得たとしても、ロシアでの執行はできません。たとえば、ロシア会社の会社運営に関する合意(株主間契約)です(さらに、仲裁地にロシアを指定することが要件とされています)。

 また、ロシア会社の株式・持分譲渡契約に関する紛争の仲裁についても、ロシアの常設仲裁機関による場合に限り認められるのではないかと考えられています。
 現在、ロシアで国内仲裁・国際仲裁の手続を管理することが認められている常設仲裁機関には、下記があります。

  • ロシア連邦商工会議所下の国際商事仲裁裁判所(International Commercial Arbitration Court)(ソ連邦時代から存在)
  • ロシア連邦商工会議所下の海事仲裁委員会(Maritime Arbitration Commission)(ソ連邦時代から存在)
  • Russian Arbitration Center at the Russian Institute of Modern Arbitration(2017年から活動)
  • Arbitration Center at the Russian Union of Industrialists and Entrepreneurs(ソ連邦崩壊後から活動)

 2017年に仲裁機関の設立要件が大きく変わり、以前は400ほどあった仲裁機関は、現在、上記4機関に減少しています。  

外国仲裁機関での仲裁が認められるものの、実質的にロシアで裁判を提起することになる場合

 外国仲裁機関での仲裁が認められるものの、実質的にロシアで裁判を提起することになる場合があります。それは、取引相手のロシア企業が倒産した場合です。ロシア倒産制度での債権届出とは、倒産事件を審理する裁判所から債権を認容する判決を取得することを意味します。そのため、仲裁合意があっても、すでに仲裁判断を取得していても、契約の準拠法が外国法であっても、ロシア裁判所に契約上の権利を認容してもらう必要があり、ロシアでの訴訟に近い負担となります(もっとも、すでに仲裁判断を得ている場合はロシア裁判所で認容されやすいと考えられます)。

 ロシア企業とのビジネスで、ロシアでの仲裁に合意する場合の留意点については、「ロシア企業との契約につき仲裁合意をする場合の確認事項」を参照ください。

おわりに

 クロスボーダー取引では仲裁の利用が推奨されますが、最終的には仲裁判断をロシアで執行することが想定される場合、ロシア法上仲裁が認められているか、仲裁が認められるとして、ロシア常設仲裁機関での仲裁のみが認められるのか、確認する必要があります。

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