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ベトナム企業を対象とするM&Aにおけるデューデリジェンスの留意点

国際取引・海外進出

 ベトナム企業を対象とするM&A取引における法務デューデリジェンスでよく問題となる点およびその対応策について、ポイントを教えてください。

 ベトナム企業を対象とする法務デューデリジェンスでは、先進諸国において行われるデューデリジェンスの結果発見される問題点とは性質の異なる問題点が発見されることが多くありますので、イシューごとに対応策を吟味のうえ、M&A契約に反映するべく契約交渉を行うことが肝要です。

解説

デューデリジェンス実施上の留意点(総論)

 一般的に、ベトナムでは、先進諸国と比べてM&A取引に慣れていない企業が多く、デューデリジェンス(以下、「DD」)の際に、タイムリーに適切な内容の資料を入手することに苦労するケースも多く見られます。たとえば、資料請求リストに記載の資料と開示された資料が全く異なっていたり、色々な理由で開示が拒否されるケースも珍しくありません。

 したがって、DDのスケジュール管理を適切に行うためには、資料請求リストの送付後、買収対象企業の担当者と密にコミュニケーションを取り、求めている資料の内容と、その資料がDDにおいて必要となる趣旨を正確に伝え、粘り強く開示を求めることが必要となってきます。

法務DDにおいてよく検出される問題点と対応策

 次に、ベトナム企業に法務DDを行った結果よく発見されるいくつかの問題点について、その内容と対応策を解説します。

法令違反

 DDの結果、最も頻繁に発見される事項の一つが、法令違反です。法令違反が発見された場合、その法令違反状態が治癒されることを、M&A取引のクロージングの前提条件とすることが基本的な対応となります。もっとも、ベトナム企業において発見される法令違反の法的リスクの大小には差異があり、そのすべてについてクロージングの前提条件とし、クロージング前に違反状態の治癒を完了させることは現実的ではない場合もあります。その場合、一部についてはクロージング後の対応とする判断も合理的です。

 そのため、発見された法令違反についてリスクの大小を分析し、その分析に応じた対応をとることが肝要です。

 具体的には、リスクのマグニチュードが大きい場合(=当該法令違反に起因する法令上の罰則やその他の観点からのインパクトが非常に大きい場合)には、原則通り、法令違反の治癒を支払いの前提条件とすることが相当と考えられますが、買収対象会社が、これまで長期間当局から特段問題点の指摘を受けてこなかったことが確認できる場合には、弁護士等の専門家が同席のうえで管轄当局担当者との面談をセッティングして当局見解を確認し、その議事録に当事者が署名することによって、特段のクロージング前の是正措置は求めないといった対応も考えられます。

贈収賄

 買収対象企業の従業員に対するインタビューにより、買収対象企業の顧客であるベトナム政府や国営企業と契約を締結する際に、契約金の一定割合の額を当該顧客の担当者個人にコミッションとして渡していることが判明することもあります。

 買収対象企業やM&A取引の売主であるベトナムローカル企業側は、このような支払いを一種の商慣習であり、いわば「必要悪」であるとして正当化を図る向きもありますが、ベトナム政府や国営企業において一定の権限を持つ者への利益供与は、ベトナム刑法上、贈賄罪に該当し、刑事責任を問われる犯罪行為です。

 このような慣行をM&A取引後もそのまま放置した場合には、買収対象企業の従業員(および当方から役職員を派遣する場合には当該役職員)がベトナム国内において刑事責任を問われる可能性があるほか、出資先の企業が贈収賄に関与していたとして、日本における当方のレピュテーションダメージにも影響することになります。また、場合によっては、当方から派遣された役職員が日本の不正競争防止法違反に問われるリスクもあります。

 対応策としては、M&A契約上、このようなコミッションの支払の停止を誓約させ、支払が停止されたことをクロージングの前提条件とするほか、贈収賄防止規程類の整備をクロージングの前提条件としたり、出資後にこのような商慣習が継続していることが発覚した場合には、コミッションの支払いを行った従業員は即刻退職させるとともに、当方が被った損害を補償させる条項を設ける、といった策があり得ます。また、クロージング後、専門家(弁護士)等による、従業員に対するコンプライアンス研修を実施することもあります。

二重帳簿の問題

 ベトナムのローカル会社では、当局提出用の財務諸表と内部管理用の財務諸表の双方が存在することは珍しくありません。DDで買収対象会社にこのような二重帳簿の存在が発覚した場合、どのように対応すべきでしょうか。

 まず、買収対象会社の企業価値評価を正確に行う観点から、「当方が選任する信頼できる専門家による精査を経た財務諸表の確定」は必須であり、M&A契約の締結までにこのプロセスを完了させることが基本的な対応となります。もっとも、相手方との契約交渉の状況に照らし、M&A契約締結までにこのプロセスを完了させることが間に合わない場合は、いったん、(買収対象企業の事業の実態をより正確に表していると考えられる)内部管理用の財務諸表で暫定的な企業価値評価を行ってM&A契約を締結したうえで、「当方が選任する信頼できる専門家による精査を経た財務諸表の確定」の完了をクロージングの前提条件とし、正確な企業価値評価を改めて株式買取価格に反映させるべく、M&A契約において、株式価値の価格調整条項を置くことも考えられます。

外資規制上問題のある事業目的

 買収対象会社の企業登録証明書に記載されている事業内容の中に、外資規制に抵触するものも含まれていることが多くあります。この場合、各法令上の外資規制により、外資企業である買主による株式の取得が禁止されることになりますので、買収対象会社の事業登録証に記載されている事業目的ごとの外資規制を確認し、もし株式取得が禁止されている場合には、M&A契約上、当該事業目的の事業登録証からの削除をクロージングの前提条件とする対応が考えられます

 また、仮に外資規制の内容が、株式取得が禁止されるものではなくても、当局審査の手続をより迅速に進めるため、買収後に遂行を予定していない事業については、同様に、事業登録証からの削除をクロージングに先立って行うことも検討されることがあります。

税務問題

 DDの過程で、税務アドバイザーによって、追徴課税のおそれがある税務問題が報告されることがあります。一般論として、ベトナムのローカル会社の税務コンプライアンス体制のレベルは必ずしも高いとは言えないため、税務DDを行った結果、このような問題が発見されることは珍しいことではありません。このような問題点が発見された場合、どのような対応をすべきでしょうか。

 まず、株式譲渡契約上、DDで発見された税務問題を特定のうえ、その問題に関連して追徴課税を受けた場合に、買主側である当方が売主側から補償を受けることができる特別補償条項を設けることが考えられます(ベトナムにおいて、追徴税額および利息の消滅時効は10年ですので、当方としては、その特別補償条項の有効期間は10年としたいところですが、売主側からはこの期間を短くするように反論があるのが通常です)。

 ただ、契約においてこのような特別補償条項を設けたとしても、実際にリスクが顕在化した時に、本当に売主側から支払を受けることができるのか、という点まで一歩踏み込んで検討する必要があります。すなわち、契約書に基づき、買主が売主に補償を求めるようなケースでは、買主と売主の間は紛争状態に至っていることが多く、そのようなケースでは売主側からの任意の支払いは見込めないようなケースも大いに想定されます。

 その場合、買主は、契約書で合意した紛争解決手段に従い、売主に対して契約書上の権利の実現を図ることになりますが、ベトナムでは日本などの先進諸国とは異なり、訴訟提起→強制執行→債権回収、というメカニズムがきちんと機能していないため、これを見越した対応策を採らないと、契約書が「絵に描いた餅」になりかねません。

 そこで、この点を踏まえた対応策としては、リスクが顕在化する可能性が高い税務問題がDDで発見されたような場合、エスクロー口座を利用して、特別補償の支払のための資金を一定期間確保しておき、代金の一部を後払いさせることが考えられます。

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