【締切間近】あなたの声が企画に反映されるかも?企業法務の1年を振り返るアンケート実施中

優先株式はなぜアメリカのベンチャー投資でよく用いられるか

ベンチャー
喜多野 恭夫弁護士

 アメリカのベンチャー投資において、優先株式が一般的に用いられる理由を教えてください。また、定款に規定される優先株式の主な権利について、教えてください。

 投資家が優先株式によって投資する理由として、普通株主に対する優先権の確保とストックオプションの報酬としての実効性の確保があげられます。
 優先株式の主な権利としては、優先配当権・残余財産分配権・普通株式への転換権などがあり、定款(Certificate of Incorporation)に規定する必要があります。

解説

優先株式が用いられる理由

 アメリカのベンチャー企業の多くは、普通株式優先株式の2種類の株式を発行しています。普通株式は、創業者や従業員、エンジェル投資家や、取引先などに対して発行されます。一方、ベンチャー・キャピタル等の投資家に対しては、優先株式が発行されるのが通常であり、それぞれの資金調達ラウンドにおいて、新しいシリーズの優先株式(Series A、 Series B…)が発行されます。

 投資家が優先株式によって投資する理由として、普通株主に対する優先権の確保があげられます。優先株式の最も重要な権利の一つは、普通株式に先立って残余財産分配を受けることができるという権利(Liquidation Preference)です。優先株主は、投資先企業の事業が期待通りにいかずエグジット時の売却額が投資総額を下回る場合でも、自己の当初投資額についてはLiquidation Preferenceとして優先的に回収できるので、この権利はダウンサイドリスクに対するプロテクションとして機能します。

 もう一つの主な理由として、ストックオプションの報酬としての実効性の確保があげられます。ベンチャー企業の普通株式の価値は、優先株式の発行価額よりも大幅にディスカウントされるのが通常であるため、ストックオプションの行使価格を低廉に抑えることにより、報酬としての実効性を担保することができます。

定款上の権利と契約上の権利

 普通株式と優先株式といった株式の種類(Class)の違い、または同一種類の中でのシリーズ(Series A優先株式とSeries B優先株式)の違いについては、発行会社の定款(Certificate of Incorporation)において規定する必要があります。定款に規定される優先株式の主な権利としては、以下があります。

  • 配当権(Dividend)
  • 残余財産優先分配権(Liquidation Preference)
  • 普通株式への転換権(Conversion)
  • 償還請求権(Redemption Right)

 これらの優先株式の権利について定款上何らの規定も置かないと、法律上のデフォルト・ルールが適用され、優先株式によって投資をした投資家も、普通株主と同列の立場に置かれてしまいます。

 一方、法律上のデフォルト・ルールが存在しない権利については、当事者は株主間の契約において優先株主の権利を自由に規定することができます。Investors' Rights Agreement、Right of First Refusal and Co-Sale AgreementおよびVoting Agreementといった複数の株主間契約によって、投資先のガバナンスやコントロールに関連する優先株主の権利を担保することができます。

 いずれにしても、優先株式の権利やその他の条件については交渉によって定まるものであり、案件ごとに大幅に内容が変化するものです。  

優先株式の権利

配当権(Dividend)

 優先配当によって、優先株主である投資家はダウンサイドの場合のプロテクションをある程度確保することができます。しかし、ベンチャー企業はキャッシュに乏しいため、優先株式に対して配当が支払われることは通常ありません。したがって、投資家にとっての経済的リターンという意味ではあまり重要な規定ではないとも言えます。

 投資家にとっては、持分の過半数を有する普通株主が取締役会において配当を決議することによって、会社の価値が流出することを防ぎ、将来のエグジットの際の投資家への分配額(Liquidation Preference)をなるべく多く確保することが必要です。したがって、過半数の持分を持たない優先株主は、配当の分配に対する拒否権を要求することが重要になります。

残余財産優先分配権(Liquidation Preference)

 優先株式は、優先配当権を有していない場合もありますが、清算時の残余財産分配権(Liquidation Preference)については、普通株主に対する優先権を常に有しています。

 残余財産優先分配権とは、清算時(合併や支配権の異動などのみなし清算事由発生時を含みます)に、普通株主に先立って、優先株主が当初投資金額の倍数(1倍や2倍)を受ける権利をいいます。また、優先株主は、清算時の参加権として、Liquidation Preference分配後に残余する財産について、普通株主と共有する権利を有することがあります。

 なお、優先株式が普通株式に実際に転換(Conversion)した場合には、Liquidation Preferenceを受領する権利を失い、他の普通株主と同じ権利を享受することになります。

転換権(Conversion)

 優先株式には、ほぼ例外なく普通株式に転換する権利が付されています。転換権および転換条件は、定款に記載する必要があります。転換条件とは、優先株式が転換される証券(通常は普通株式)、転換比率、転換比率の調整の方法等が含まれます。

 転換(Conversion)は、優先株主のオプションでいつでも転換できる場合(Optional conversion)と、特定の事由(一定の規模以上のIPO等)が発生した場合や一定持分以上の優先株主が同意した場合に強制的に転換される場合(Mandatory Conversion)の2つのパターンがあります。

償還請求権

 一定の持分以上の優先株主の同意により、当初発行価額で優先株式を償還するように発行会社に対して請求できる権利です。投資家にとってのダウンサイド・プロテクションとして機能する権利ですが、実際に償還請求権が行使され、投資金額が償還されるケースは多くありません。

 投資家が償還請求権を行使した場合であっても、法的な制限から償還されないこともあります。デラウェア州の衡平法裁判所(Court of Chancery)の判例1によると、優先株式の償還のために法的に利用可能な現金("funds legally available”)を有しているか否かの判断は発行会社の取締役会に委ねられており、会計上の剰余金(Surplus)が存在していたとしてもそれだけで償還義務が発生するわけではないとして、優先株主による償還請求が斥けられたケースもあります。  


  1. SV Investment Partners, LLC v. Thoughtworks, Inc., 7 A.3d 973 (Del. Ch. 2010) ↩︎

関連する実務Q&A

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する