抽選でAmazonギフト券が当たる! 2018年の企業法務を振り返るアンケート実施中

所在不明株主から株式を取得する方法

コーポレート・M&A

 私はX社(株式会社・非公開会社・株券不発行会社)の創業者で、X社の議決権の92%相当の株式を保有しています。親族内やX社内には適切な後継者がいないため、私は、X社をM&Aにより売却することを検討していますが、買手の候補者からはX社の発行済株式のすべてを取得する必要があると言われています。X社には議決権の3%を保有している少数株主のA氏が存在するのですが、A氏は2年ほど前から行方不明であり、A氏と交渉してA氏から株式を買い取ることはできない状況です。所在不明のA氏の保有株式を取得する方法はあるのでしょうか。

 X社の総株主の議決権の90%以上を単独で有している「特別支配株主」に該当するため、特別支配株主の株式等売渡請求を活用し、A氏から株式を強制的に取得することが考えられます。A氏に対する株式取得対価の支払は、A氏の住所地を管轄する法務局に供託する方法により行います。

解説

所在不明株主からの株式取得のニーズ

 会社に所在不明の株主がいる場合、剰余金の配当等の株主管理コストを削減する観点から、当該所在不明株主の株主の地位を失わせたいというニーズが生じることがあります。また、M&Aが行われる際にも、買収者としては対象会社の株式の100%を取得したいと考えるのが通常であるため、所在不明株主の株主の地位を失わせたいというニーズが生じることがあります。
 所在不明株主の保有株式については、当該所在不明株主と直接交渉して任意に株式を取得することは不可能であるため、これを強制的に取得する方法がないかが問題となります。

所在不明株主の株式の競売等

所在不明株主の株式の競売等の制度の概要

 従来(平成14年商法改正以降)からあった方法として、所在不明株主の株式の競売等の制度があります。これは、①所在不明株主に対する通知・催告が5年以上継続して到達せず、かつ、②当該所在不明株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合には、会社が、当該所在不明株主の保有株式について、その承諾を得ることなく、競売するかまたは一定の方法により売却することができるというものです(会社法197条)。

所在不明株主の株式の競売等の制度

 この制度により会社が所在不明株主の保有株式の競売または売却を行うには、会社法198条1項および会社法施行規則39条に定める事項についての公告と当該所在不明株主およびその登録株式質権者に対する各別の催告を行ったうえで、当該所在不明株主その他の利害関係人が異議を述べずに会社が定めた3か月以上の異議申述期間が経過することが必要となります(会社法198条1項)。なお、異議申述期間内に所在不明株主その他の利害関係人が異議を述べなかったときは、当該所在不明株主の保有株式に係る株券は無効となります(会社法198条5項)。

所在不明株主の保有株式の換価の方法

 所在不明株主の保有株式の換価の方法としては、競売売却があります。売却の方法は、市場価格のある株式か否かによって異なり、市場価格のある株式の場合は、市場価格として会社法施行規則38条で定める方法により算定される額をもって売却する必要があります(会社法197条2項1文前段)。
 一方、市場価格のない株式の場合は、取締役全員の同意により裁判所に対して売却許可の申立てを行い(会社法197条2項2文)、裁判所の許可を得て売却する必要があります(会社法197条2項1文後段)。
 会社は、このようにして売却する株式の全部または一部を自ら買い取ることができます(会社法197条3項)。

 会社による所在不明株主の保有株式の競売または売却により、当該所在不明株主は株主の地位を失うことになります。競売または売却の代金の所在不明株主に対する支払は、供託する方法により行います(民法494条)。
 所在不明株主に対する通知・催告が5年以上継続して到達しない場合の当該所在不明株主に対する会社の義務の履行地は会社の本店所在地とされているため(会社法196条2項、4条)、供託の手続は会社の本店所在地を管轄する法務局で行います(民法495条1項)。

スクイーズ・アウトを活用する方法

 上記2の所在不明株主の株式の競売等の方法は、所在不明株主に対する通知・催告が継続して到達しない期間が5年未満である場合または所在不明株主が継続して剰余金の配当を受領しなかった期間が5年間未満の場合には利用できませんが、そのような場合にも、スクイーズ・アウト会社の支配株主が、他の少数株主の有する株式の全部を、その少数株主の個別の承諾を得ることなく、現金を対価として強制的に取得し、少数株主を会社から締め出すこと)の方法を活用すれば、所在不明株主の株主の地位を失わせることが可能です。

 個人の所在不明株主の保有株式を取得する場合のスクイーズ・アウトの手法としては、実務上は、「特別支配株主の株式等売渡請求」または「株式併合」が利用されています。

特別支配株主の株式等売渡請求

 「特別支配株主の株式等売渡請求」とは、平成26年の会社法改正(施行は平成27年5月1日)により新たに導入された制度であり、自ら単独でまたは自らの100%子会社等と併せて対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する株主(特別支配株主)が対象会社の承認(取締役会設置会社の場合には取締役会決議、取締役会非設置会社の場合には取締役の過半数による決定)を得ることにより対象会社の他の株主全員に対し保有株式全部の売渡しを請求できるという制度です。特別支配株主の株式等売渡請求の具体的な手順については、「中小企業の事業承継・M&Aにおけるスクイーズ・アウトの最新動向」をご参照ください。

[図1]特別支配株主の株式等売渡請求の手順

特別支配株主の株式等売渡請求

 支配株主(その100%子会社等を含む)の議決権割合が90%以上の場合には、この「特別支配株主の株式等売渡請求」を活用して、所在不明株主の保有株式を取得することが可能です。本制度を活用する場合、対象会社の承認手続としては、取締役会設置会社の場合には取締役会決議、取締役会非設置会社の場合には取締役の過半数による決定で足り、株主総会決議は不要であるため、短期間(最短20日間程度)で所在不明株主の保有株式を取得することが可能となります。ただし、会社が株券発行会社である場合(株式の全部について株券を発行していない場合を除きます)には、特別支配株主の株式等売渡請求を承認するにあたって、所在不明株主の保有株式を含む売渡株式の取得日の1か月前までに株券の提出に関する公告および通知を行う必要があります(会社法219条1項4号の2)。

 この場合の所在不明株主に対する株式取得対価の支払は、供託する方法により行います(民法494条)。供託の手続は、支払債務の履行地である所在不明株主の住所地を管轄する法務局で行います(民法495条1項、484条参照)。

株式併合

 「株式併合」を用いるスクイーズ・アウトの手法は、株式併合後の少数株主の保有株式数が1株未満となるような併合割合での株式併合を用いて少数株主の保有株式を強制取得する(結果的に少数株主は現金を受け取って保有株式を失う)というスキームです。株式併合の具体的な手順については、「中小企業の事業承継・M&Aにおけるスクイーズ・アウトの最新動向」をご参照ください。

[図2]株式併合の手順(下記の図は4株を1株とする株式併合の例)

特別支配株主の株式等売渡請求

 この「株式併合」スキームは、前述の「特別支配株主の株式等売渡請求」とは異なり、株式併合に際して株主総会の特別決議が必要となります。支配株主(その100%子会社等を含む)の議決権割合が90%未満であっても、支配株主(その100%子会社等を含む)と支配株主に同調する株主を合わせた議決権割合が3分の2以上の場合には、「株式併合」を活用して、所在不明株主の保有株式を取得することが可能です。なお、会社が株券発行会社である場合(株式の全部について株券を発行していない場合を除きます)には、株式併合の効力発生日の1か月前までに株券の提出に関する公告および通知を行う必要があります(会社法219条1項2号)。

 この場合の所在不明株主に対する株式取得対価の支払は、供託する方法により行います(民法494条)。供託の手続は、支払債務の履行地である所在不明株主の住所地を管轄する法務局で行います(民法495条1項、484条参照)。

おわりに

 本件では、A氏は2年ほど前から行方不明ということであり、A氏に対する通知・催告が継続して到達しない期間は5年未満であるため、所在不明株主の株式の競売等の方法を利用してA氏の保有株式を取得することはできません。

 しかしながら、X社の総株主の議決権の92%を単独で有しているとのことであり、「特別支配株主」に該当するため、特別支配株主の株式等売渡請求を活用し、A氏の保有株式を強制的に取得することが考えられます。A氏に対する株式取得対価の支払は、A氏の住所地を管轄する法務局に供託する方法により行います。なお、X社は株券不発行会社であるため、特別支配株主の株式等売渡請求を承認するにあたって、株券の提出に関する公告および通知を行う必要はありません。

関連する実務Q&A

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する