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専門委員が手続に関与することとなった場合の対応

訴訟・争訟

 当社は化粧品メーカーですが、当社製品を使用して健康被害を被ったと主張する顧客が、当社に対して製造物責任法に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、現在係争中です。被害の発生が、顧客(原告)の当社(被告)製品の使用方法(用法上の注意に記載の内容とは著しく異なる態様にて使用したこと)を原因とするものであるか否かが、訴訟上の大きな争点となっているのですが、原告は、「確かに用法上の注意は守らなかったが、そのことは被害の発生とは無関係である。被害発生の原因は、あくまでも被告製品に有害物質が含まれていたことにある」と主張しています。

 今般、裁判所から、「原告の不適切な使用方法が原因で被害が発生したのか否かを判断するには、専門的知見を要するため、専門委員を選任したい」との話があったのですが、専門委員というのは、どういった立場の方なのでしょうか。専門委員が選任されると、訴訟上、当社は有利になるのでしょうか。

 専門委員とは、裁判所が、専門訴訟において、専門的知見に基づく説明を聞くために選任し、訴訟手続に関与させる専門家のことをいいます。
 専門委員は、あらかじめ裁判所より送付された質問事項に対し、専門的知見に基づき一般的な説明を行うものですが、訴訟当事者としては、自身に有利な(少なくとも不利ではない)結果を導くべく、綿密な戦略を練って質問事項を作成し、あるいは専門委員の説明に対する意見を述べる必要があります。

解説

専門委員制度の概要

専門委員とは

 専門委員とは、高度に専門的・技術的な事項が争点となる訴訟(いわゆる専門訴訟)において、裁判所が、専門的知見に基づく説明を聞くために、客観的・中立的なアドバイザーとして選任して訴訟手続に関与させる、特定の専門分野についての豊富な知識を有する専門家であり(民事訴訟法92条の2)、その身分は非常勤の裁判所職員です(民事訴訟法92条の5第3項)。
 科学技術の高度化に伴い、現代の訴訟が審理の対象とする事項は、その理解に高度に専門的・技術的な知識を要するものが増加していますが、裁判官にあらゆる分野の専門的知見を備えさせることは、現実的に不可能です。そこで、専門訴訟の審理に必要な専門的知見を裁判所に供給することを目的に、平成15年の民事訴訟法改正によって導入されたのが、専門委員制度です。

選任の手続

 専門委員は、弁論準備手続期日における争点整理等や証拠調期日における尋問、和解期日における和解協議に関与することができますが、実務上多いのは、弁論準備手続期日における争点整理等への関与です。裁判所は、これらの手続ごとに、専門委員を関与させる決定を行うところ、和解協議に関与させる場合は当事者の同意を得る必要があるものの(民事訴訟法92条の2第3項)、その他の場合は当事者の意見を聴くのみで足りるとされています(民事訴訟法92条の2第1項、2項。ただし、専門委員を関与させる決定は、当事者双方の申立てがあるときはこれを取り消さなければならないとされていますので(民事訴訟法92条の4ただし書)、専門委員を関与させることにつき、少なくともいずれかの当事者の同意があることは前提となるでしょう)。

選任の手続

 専門委員の員数は、法文上は「一人以上」とされていますが(民事訴訟法92条の5第1項)、実務上は一人の専門委員が選任されることが多いように思われます。
 専門委員の具体的な人選については、裁判所が、専門委員候補者名簿から事案に最も適すると考えられる候補者を選び、候補者本人に対して受諾の意思を確認するとともに、候補者と当事者との間に利害関係がないことを確認したうえで、意見聴取等の手続を経て選任しています。専門委員候補者には、学者・研究者、有資格者(医師、建築士等)、企業出身者といった様々な立場の専門家がいますが、良い人材を多く確保することの困難性が、専門委員制度の課題であるとも認識されています。

専門委員の関与の態様

 専門委員は、その専門的知見に基づく説明を、書面で、または期日において口頭で行うものとされていますが(民事訴訟法92条の2)、実務上は、書面による説明および口頭説明のいずれも行う場合が多いように思われます。

 たとえば、争点整理等に専門委員を関与させる場合、まずは裁判所において質問事項を書面に取りまとめ、専門委員に送付します。この質問事項書は、当事者に質問事項を提示させたうえで、裁判所がそれらを取捨選択し、あるいは修正を行い、裁判所の質問事項も追加して作成する場合もあれば、裁判所が自ら質問事項を作成し、当事者の意見を聴いて適宜修正することにより作成する場合もあります。なお、専門委員には、質問事項書とあわせて、必要な訴訟記録の写しも送付されます。

 専門委員は、質問事項書等の送付を受けてから一定期間後に、質問事項に対する回答をメモにまとめて裁判所に送付し、かかる回答メモは、裁判所から当事者に送付されます
 その後、弁論準備手続期日等が開かれ、期日に出頭した専門委員は、回答メモに沿って、質問事項に対する回答および補足的な説明を口頭で行います。当事者は、専門委員がした説明に対して意見を述べる機会が与えられますので(民事訴訟規則34条の5)、期日では、専門委員の説明に対し、適宜質問をしたり、(特に、自身に不利と思われる内容の説明を受けた当事者において)疑問を呈したりすることが可能です。ただし、専門委員は客観的・中立的な第三者であること、あくまでも専門的知見に基づく一般的な説明をするのみであって、個別具体的な事案における争点に対する判断を行うものではないこと等に鑑み、当事者が専門委員の説明に真っ向から反論するようなことは、裁判所も制止する場合が多いように思われます。

専門委員が手続に関与することとなった場合の対応についての留意点

 一般に、専門委員が選任されやすい専門訴訟の類型は、医療訴訟、建築訴訟、知的財産権関係訴訟などであるといわれており、企業が当事者となる訴訟において、専門委員が日常的に手続に関与しているというわけでは必ずしもありません。もっとも、これらの類型の訴訟以外にも、製造物責任が争われる訴訟において、欠陥の有無を判断する前提として専門技術的な知見が必要となる場合や、ソフトウェアの開発委託契約上の債務不履行責任が争われる訴訟において、契約内容を理解するためにコンピュータ・プログラムに関する専門技術的な知見が必要となる場合などに、専門委員が選任されることはあり、企業が当事者となる訴訟において、専門委員が関与する機会が非常に少ないというわけでもありません。実際に、筆者が企業側の代理人を務めた訴訟の中にも、裁判所により専門委員が選任されたものが複数件あります。

 専門委員が訴訟手続に関与する場合の対応において、最も注意すべきは、専門委員に対する質問事項を具体的にどのように立てるかであると思われます。前記のとおり、専門委員は専門的知見に基づく一般的な説明を行うことが求められる立場にあり、個別具体的な事案における争点に対する判断を行うものではありません(現に、裁判所は、専門委員の説明内容をそのまま事実認定の証拠としてはならず、裁判所の判断に代替させてはならないとしています)。しかしながら、他方において、「専門的知見」と一口にいってもその内容が一義的に定まるものばかりではなく、また、事案に応じ、事実が具体的にどうであったかによっても、異なる知見が得られる可能性があります。極論すれば、質問事項の前提条件をどう設定するかによって、説明内容が正反対となることもあり得るところ、質問の仕方に意を払わなかった場合、言い方は悪いですが「木を見て森を見ず」といった回答がなされるおそれさえあります(必要な訴訟記録も送付するといっても、専門委員が訴訟記録の細部まで精査するとは限りませんし、訴訟の専門家ではない専門委員において、質問事項と訴訟上の争点との関係を正しく理解できるとも限りませんので、具体的事案に即して必ずしも適切とは思われない回答がなされる可能性は否定できません)。

 また、期日における専門委員の口頭説明時にも、非常にデリケートな対応が求められます。専門委員が一方当事者に不利と思われる内容の説明をした場合に、これが証人尋問であれば、その当事者側としては、反対尋問等において説明内容の不合理性や不明瞭性を指摘し、信用性の減殺を試みることが可能ですが、専門委員はあくまでも一般論という形で専門的知見を説明するものであるため、期日においてその説明内容を厳しく検証することは難しいといわざるを得ません。専門委員の見解につき、例外もある、ケース・バイ・ケースであるといった方向に誘導する程度が限界ではないかと思われますが、訴訟経験の豊富な代理人弁護士をもってしても、実行はそう容易ではないように思われます。

 企業担当者としては、企業が当事者となっている訴訟において専門委員が選任される場合には、「プロに聞くのであるから、正しい(自社に有利な)答が返ってくるに決まっている」と安易に考えることなく、質問事項作成の段階から代理人弁護士とともに綿密な戦略を練り、また、専門委員の口頭説明時に代理人が適切に対応できるよう、自社が保持する専門知識は、あらかじめ代理人に十分にレクチャーしておくことが重要です。

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