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取締役の職務執行停止の仮処分・職務代行者選任の仮処分

コーポレート・M&A
金井 俊樹弁護士

 当社の定時株主総会で、取締役の選任議案が可決されましたが、当社の株主の1人が、取締役選任決議には瑕疵があるとして、株主総会決議の取消訴訟を提起するとともに、裁判所に対して、取締役の職務執行停止の仮処分と職務代行者選任の仮処分を申し立てました。
 株主総会決議取消訴訟は聞いたことがありますが、取締役の職務執行停止の仮処分と職務代行者選任の仮処分は聞いたことがありません。それぞれの仮処分は、どのようなものか、教えてください。

 取締役の職務執行停止の仮処分は、取締役選任の株主総会決議の取消訴訟等が提起された場合において、判決が確定するまでに当該取締役が職務執行を行うと会社に著しい損害が生じるおそれがある場合に、当該損害や危険の発生を防ぐために、当該取締役の職務執行を一時的に停止することを求めて行う仮処分です。
 また、職務代行者選任の仮処分は、取締役選任の株主総会決議の取消訴訟等が最終的に解決するまでの間、当該取締役に代わって会社の業務を行う者を選任することを求めて行う仮処分です。

解説

取締役の職務執行停止の仮処分

概要

 取締役の職務執行停止の仮処分は、民事保全法における仮の地位を定める仮処分の1つです。
 取締役選任の株主総会決議に瑕疵がある等、現在の取締役の地位に関して法的な問題がある場合には、取締役選任の株主総会決議の取消訴訟(会社法831条)等を提起することになりますが、判決が確定するまでには時間を要します。判決が確定するまでは取締役の地位は失われませんが、その間、当該取締役が職務執行を行うと、会社に著しい損害が生じることが想定されるケースもあります。
 このようなケースにおいて、取締役選任の株主総会決議の取消訴訟等の判決が確定するまでの間に、会社に著しい損害が生じることを防ぐために、当該取締役の職務を一時的かつ暫定的に停止することを求めて行う仮処分が、取締役の職務執行停止の仮処分です。
 仮処分(保全命令)の申立てには、被保全権利と保全の必要性を明らかにし、疎明しなければなりません(民事保全法13条1項、2項)。

被保全権利とは

 被保全権利とは、保全の対象となる実体的な権利関係のことで、取締役の職務執行停止の仮処分の場合には、取締役の地位に関する権利関係を指すことになります。取締役の職務執行停止の仮処分の申立人は、被保全権利の疎明として、取締役選任の株主総会決議の取消訴訟等を提起していることに加え、選任決議に瑕疵があることを基礎づける事実が存在することを主張し、疎明することになります。

会社に「著しい損害」が生じる場合とは(保全の必要性)

 仮処分が認められるための要件の1つである保全の必要性とは、取締役の職務執行停止の仮処分の場合には、取締役が職務執行を行うと、「債権者」に「著しい損害または急迫の危険」が生じるために、これを避ける必要性があることを意味します(民事保全法23条2項)。
 ここでいう「債権者」とは、素直に考えると、仮処分の申立てを行った者(株主等)が該当すると思われます。しかし、実務上は、仮処分の申立てを行った者(株主等)ではなく、会社を「債権者」として読み替えて、会社に著しい損害や急迫の危険が発生することが必要と解しています(名古屋高裁平成2年11月26日決定・判タ753号210頁等)。

 次に、「著しい損害」とは、事後的に回復しがたい経済的な損害を意味し、一般的な類型としては、以下のようなケースがあげられています 1。なお、以下のようなケースにあたる場合には、「急迫の危険」という要件も充足すると考えることができます。

  1. 会社の信用が従前の代表取締役個人の信用に基礎を置いており、現在の自称取締役では対外的信用が失墜するおそれがある場合
  2. 現在の自称取締役に経営能力がない場合
  3. 現在の自称取締役が会社の重要な財産を個人の利益を図る目的で処分しようとする場合 等

仮処分が発令された場合の効果

 取締役の職務執行停止の仮処分が発令されると、取締役選任の株主総会決議の取消訴訟等の判決が確定するまでの間、暫定的に、その取締役の職務権限が全面的に停止されることになります。仮処分が発令された場合には、その旨の登記がなされます(会社法917条1号、民事保全法56条)。
 上記の効果は、当事者間のみならず、第三者に対しても及びます。したがって、仮処分が発令されたにもかかわらず、それに違反して当該取締役が職務執行を行った場合には、当該職務執行は第三者との関係でも、絶対的に無効と解されています。

仮処分が発令された場合の効果のイメージ図

職務代行者選任の仮処分

概要

 職務代行者選任の仮処分は、取締役の職務執行停止の仮処分に付随する仮処分です。職務執行停止の仮処分によって取締役の職務執行が停止されることで会社の業務に支障が生じるおそれがある場合に、それに備えて発令されます。
 取締役の職務執行停止の仮処分が発令された場合に、必ず併せて職務代行者を選任しなければならないということはありません。職務代行者が選任される場合の多くは、代表取締役の職務代行者です。

職務代行者の地位と権限

 職務代行者は、取締役選任の株主総会決議の取消訴訟等の判決が確定するまでの間、会社の業務を臨時的に行う代行者で、会社と委任関係にはなく、会社から中立的な立場で職務執行を行います。
 職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の「常務」に属する範囲に限られ、これ以外の行為を行う場合には、裁判所の許可が必要です(会社法352条1項)。「常務」とは、会社として日常的に行われるべき通常の業務をいいます。原料の仕入れや生産・販売等の通常かつ日常的な業務執行が典型例です。
 仮に、職務代行者が、仮処分命令に別段の定めがないのに、裁判所の許可もなく、「常務」以外の行為をした場合には、その行為は法的に無効になります(会社法352条2項本文)。もっとも、取引の安全を図るために、善意の第三者には、行為の無効を主張できないとされています(同項ただし書)。


  1. 本間健裕「取締役らの職務執行停止・代行者選任の仮処分」門口正人編『新・裁判実務大系(11)会社訴訟・商事仮処分・商事非訟』(青林書院、2001)243頁 ↩︎

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