アメリカのベンチャー企業への投資における、希薄化を防止するための規定

ベンチャー
喜多野 恭夫弁護士

 アメリカのベンチャー投資において、投資家の持分の希薄化を防止するための手段として、どのような規定があるか、教えてください。

 タームシートにおいては、取締役会が決議する新株発行をブロックできる保護条項(Protective Provisions)として、①普通株式の発行可能株式数の変更の制限、②定款の変更の制限、③他の優先証券の発行制限が規定されています。
 また、投資家の持分比率に応じて、将来の新株発行に優先的に参加する権利(優先的引受権)が与えられています。

解説

取締役会のコントロール権

 新株発行は取締役会によって決議されるので、優先株主が指名する取締役が取締役会の過半数を占める場合には、希薄化が生じる新株発行が行われるおそれはありません。
 優先主による取締役選任権は、定款 1 に規定されています。

“Voting Rights: the Series A Preferred as a class shall be entitled to elect [ ] members of the Board (the “Series A Directors”)”

 また、取締役会の構成は、Voting Agreement 2 において以下のように規定されています。

“1.2 Board Composition. Each Stockholder agrees to vote…to ensure that… the following persons shall be elected to the Board:
(a)One person designated by Investor A (優先株主A)
(b)One person designated by Investor B (優先株主B)
(c)One person designated by “Key Holders”(普通株主)
(d)CEO Director (普通株主)
(e)One person not otherwise an Affiliate of Company or any Investor…” (独立取締役)

 通常、シリーズAの投資の段階では、優先株主が取締役会の過半数を握っているという状況にはありません。タームシートのモデル条項においては、優先株主と普通株主がそれぞれ2名の取締役を選任する権利があり、独立取締役として1名が選任されるという規定になっています。
 したがって、優先株主が取締役会をコントロールする前の段階では、取締役会が決議する新株発行をブロックできる保護条項(Protective Provisions)を交渉することが必要になります。

新株発行をブロックするための保護条項(Protective Provisions)

 タームシートでは、取締役会による新株発行を優先株主がブロックするための保護条項(Protective Provisions)が3つあげられています。いずれも定款に規定される権利です。

普通株式の発行可能株式数の変更の制限

 普通株式の発行可能株式数は、普通株式と優先株式(転換後ベースの議決権)全体の過半数の決議によって変更することができるという規定です。

“Voting Rights: The Company’s Certificate of Incorporation will provide that the number of authorized shares of Common Stock may be increased or decreased with the approval of a majority of the Preferred and Common Stock, voting together as a single class, and without a separate class vote by the Common Stock.”

 したがって、優先株主が転換後ベースの議決権の過半数を有している場合、取締役会が現状の発行可能株式総数の枠を超える新株発行を行うことをブロックすることができます。しかし、現状の発行可能株式総数の範囲内の新株発行をブロックすることはできません。

定款の変更の制限

 会社が定款の規定を【シリーズA優先株式に不利な形で】変更・廃止する場合、シリーズA優先株主の[x]%の同意が必要となるという規定です。

“Protective Provisions: …Company will not, without consent of holders of at least [x]% of Series A Preferred…”
…(ii)amend, alter, or repeal any provision of the Charter [in a manner adverse to the Series A Preferred];”

 本規定により、一定のシリーズA優先株主の同意がなければ、会社は新たなシリーズの優先株式を発行することができないことになります。なぜなら、新たなシリーズの優先株式を発行するためには定款変更が必要であるからです。
 【シリーズA優先株式に不利(adverse)な形で】とは、たとえば、シリーズAのLiquidation Preferenceの額を下げるなど、優先株主の権利に直接影響を与える変更と考えられています。したがって、このカッコ書きが規定されている場合、シリーズAよりも優先(senior)する新たなシリーズの優先株式(シリーズB)の新規発行については、本規定の制限が及ばないことになります。

他の優先証券の発行の制限

 会社がシリーズA優先株式よりも優先(senior)または同順位の権利を有する他の証券の発行を行うためには、シリーズA優先株主の[x]%の同意が必要となるという規定です。  

“Protective Provisions: …Company will not, without consent of holders of at least [x]% of Series A Preferred… …(iii)create or authorize the creation of [or issue] any other security…having rights, preferences or privileges senior to or on parity with the Series A Preferred...”

 上記2-2において【シリーズA優先株式に不利(adverse)な形で】というカッコ書きがある場合、本規定により新たなシリーズB優先株式の新規発行をブロックすることができます。

優先的引受権(Pre-emptive Right)

 タームシートでは、すべての(主要)投資家は、完全希薄化後ベースでの各持分比率に応じて、将来の新株発行に優先的に参加する権利(優先的引受権)が規定されています。詳細はInvestor Rights Agreement 3 に規定されます。

“Right to Participate Pro Rata in Future Rounds: “All [Major] Investors shall have a pro rata right, based on their percentage equity ownership in the Company(assuming the conversion of all outstanding Preferred Stock into Common Stock and the exercise of all options outstanding), to participate in subsequent issuances of equity securities of the Company”

 既存の投資家が優先的引受権を行使した場合、新規株式の発行による経済的な意味の希薄化の影響を受けることはありません。ただし、新規の株式発行に参加することができる十分な資金を有する投資家にのみ有効な規定といえます。

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