特許異議の申立てとは

知的財産権・エンタメ

 特許異議の申立てについて教えてください。

 特許異議申立てとは、特許掲載公報の発行から6か月の間、特許付与に対して公衆が異議を述べる制度をいいます。特許異議申立ては、申立人の手続負担が軽く、ダミーの利用も可能であるため、利用しやすい半面、申立後、申立人は原則として手続に関与できません。そのため、特許異議申立ては、自社の名前を出さず、また、特許権者と直接対峙することなく、軽い負担で事業活動の障害となる特許を排除するのに適した制度といえます。

解説

特許異議申立ての概要

 特許異議申立てとは、特許庁による特許付与に対して公衆が異議を述べる制度をいい(特許法113条)、簡易に瑕疵ある特許を是正するとともに、特許の早期安定化を図ることを目的として設けられています。

特許意義の申立て

出典:特許庁審判部「審判制度の概要と運用」(平成30年度)

特許異議申立制度の歴史的変遷

 歴史的に見ると、特許異議申立ては、変遷の多い制度です。
 遡ると、特許異議申立ては、かつて、特許審査の一環として、特許付与前に公衆から異議申立てを受け付ける制度でした。現代のように、コンピュータで技術情報を検索できなかった時代には、先行技術を収集するにあたり、民間の当業者から情報を得ることも有益であると考えられていたのです。なお、「当業者」とは、特許法29条2項や同法36条4項1号で用いられている「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」の略称で、もともとは現行特許法以前の法律で用いられていた用語ですが、現在も慣用されています。

 しかし、付与前異議申立制度があることにより、特許付与に至るまでに時間がかかりすぎるという問題があったため、平成6年の特許法改正により、付与後に異議を申し立てる制度に変更されました。これが現在の制度の原型となっており、平成6年以降の制度は、付与前に異議を受け付ける制度との対比で、「付与後異議申立制度」と呼ばれることがあります。
 このようにして導入された付与後異議申立て制度でしたが、平成15年の改正では、特許を無効化する手続を特許無効審判に一本化するため、特許無効審判を誰でも請求できる制度にするとともに、特許異議申立て制度は廃止されました。

 しかし、簡易に特許の取消しを求める制度へのニーズに応え、かつ、特許を早期に強く安定させることを可能にするため、平成26年改正により、付与後異議申立制度が再導入されたのが現在の特許異議申立てです。

取消理由

 特許異議申立てにおいて取消理由となるのは、以下のとおり、いわゆる公益的理由のみで、権利帰属に関する無効理由や後発的無効理由も対象とする特許無効審判と比較すると限定されています。また、特許異議申立ての申立期間の制限から、訂正要件違反も申立ての理由にされていません。

内容 適用条文
権利享有違反 権利の享有が認められていない外国人に特許がされた場合 113条2号、25条
特許要件違反 産業上の利用可能性、新規性、進歩性、拡大先願、先願、公序良俗といった特許要件を欠く場合 113条2号、29条、29条の2、32条、39条1項ないし4項
記載要件違反 実施可能要件、サポート要件、明確性要件、簡潔性要件といった記載要件を欠く場合 113条4号、36条4項1号、同条6項各号(4号除く)
補正要件違反(新規事項違反(外国語書面出願を除く)) 違法な補正がなされた場合 113条1号、17条の2第3項
条約違反 条約に違反して特許された場合 113条3号
原文新規事項 外国語書面出願において、原文の範囲にない記載がある場合 113条5号

申立人適格

 特許異議の申立ては、何人でもすることができます(特許法113条)。これは、審査官によるサーチだけでは賄えない技術情報を広く公衆から情報を集め、不適切な特許を取り消し、強い特許を早期に安定させるという目的を背景とします。

 「何人でも」申し立てることができるということは、特許異議を申し立てる当事者は、対象となる特許によって事業活動が阻害されるなどの利害関係を有している必要はなく、極論すれば、乳児でも申立人となることができます。そのため、特許異議は、いわゆるダミー(紛争とは関係のない第三者)による申立ても多いことから、特許権者との直接的な対立を避けつつ事業活動の障害となる特許を取り消す制度として利用することが可能です。
 なお、ダミーを利用することはできるものの、匿名での申立てはできません(特許法115条1項1号)。

申立期間

 特許異議の申立期間は、特許掲載公報発行後6か月に限られます(特許法113条)。この期間を経過した後に特許を排除する場合には、特許無効審判によることとなります。

審理と決定

 特許異議の申立てがあると、特許庁は、3名または5名の審判官からなる合議体により(特許法114条1項)、特許権者との間で書面による審理を進め(特許法118条1項)、異議申立てに理由があるとき(前記3)は、特許を取り消す決定をします(特許法114条2項)。特許異議申立てでは、申立後は特許庁と特許権者の間で審理が行われ、申立人は例外的場合を除いて審理に関与することはできません。

 取消しの決定が確定すると、特許は取り消され、特許権は初めからなかったものとみなされます(特許法114条3項)。特許権者が取消決定を不服とするときは、裁判所に決定取消訴訟を提起することができます(特許法178条1項)。決定取消訴訟の提起については、「審決等取消訴訟の提起と訴訟要件」を参照ください。

訂正の請求

 前述の特許の取消しを回避する手段として、特許の訂正があります。訂正の一般的な手続は訂正審判という審判手続ですが、特許異議申立ての係属後は、決定の確定までの間、訂正審判を請求することができなくなります(特許法126条2項)。
 その代わりに、特許異議申立ての審理の中で、訂正の請求という手続によって訂正をする制度が用意されており、また、取消決定がなされる前には、特許権者に取消理由が通知され、訂正の請求をする機会が付与されることとなっています(特許法120条の5第1項)。

 なお、取消理由が通知された後は、特許異議申立てを取り下げることはできなくなります(特許法120条の4第1項)。

特許異議申立てと特許無効審判の使い分け

 特許庁において他社の特許の有効性を争う手続としては、特許異議申立てのほかに、特許無効審判があり(特許法123条)、特許異議申立ての申立期間内であれば、どちらでも利用することが可能です。
 いずれの手続によるべきかは、「情報提供後に特許査定がなされた場合の対応(特許異議と特許無効審判)」で詳細に説明していますが、上述のような制度の性質から、特許異議申立ては、ダミーを用い、または、軽い負担で障害となる特許を排除したいときに利用しやすい制度といえます。

不服申立て

 特許異議申立てによって特許が取り消されたときは、取消決定を受けた特許権者は、知的財産高等裁判所に、決定取消訴訟を提起することができます。 決定取消訴訟の概要については、「特許法上の審決等取消訴訟の概要と法的性質」を参照ください。

関連する実務Q&A

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

90秒で登録完了

無料で会員登録する