特許無効審判の審理と審決

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 特許無効審判の審理はどのように行われるのでしょうか。また、審決にはどういった効力があるのでしょうか。

 特許無効審判は、審判合議体のもと、口頭審理によって行われます。民事訴訟とは異なり、職権審理が認められる一方、請求の理由の要旨を変更する補正が制限されており、原則として、請求人が審判請求後に無効理由を追加することは許されません。また、特許権者には、手続のいくつかの時点で、訂正の請求の機会が認められています。特許無効審判の審決には一事不再理が働き、蒸し返しが防止されます。

解説

目次

  1. 特許無効審判の審理
  2. 職権審理
  3. 訂正の請求
  4. 請求の理由の要旨変更補正の禁止とその例外
  5. 審決の予告
  6. 審決とその効力
  7. 不服申立て

特許無効審判の審理

 特許無効審判の審理は、他の審判と同様、特許庁において、3名または5名の審判官の合議体によって行われます(特許法136条1項)。

 特許審判は、書面のやり取りのみで審理が完結する書面審理または関係者が審判廷に会して審理をする口頭審理のいずれかで行われますが (参照:「特許審判の種類と手続」)、特許無効審判については、口頭審理が原則とされています(特許法145条1項)。

 もっとも、特許無効審判における口頭審理は、訴訟における口頭弁論期日や弁論準備期日のように、定期的に裁判所で期日が開かれるわけではなく、審判長の指示によって主張や証拠のやりとりが書面でなされた後に、通常は1回だけ開催されます。口頭審理においては、それまでに提出された主張の整理や書証の取り調べが行われ、調書に記載すべき事項の確認を経て終了するのが通常ですが、場合によっては検証や証人尋問といった他の立証がなされることもあります。

職権審理

 特許無効審判は、当事者対立構造のもとで審理される点では民事訴訟と類似しています。しかし、専ら特定の私人間の紛争解決を目的とする民事訴訟とは異なり、特許無効審判は、対世的な効力を有する特許権の有効性を審理するものであって公益性が強いため、処分権主義や弁論主義といった考え方は採用されておらず、当事者が不在であっても審理を進めることができ(特許法152条)、職権探知による証拠調べも認められています(特許法153条1項)。

 もっとも、当事者間で議論がなされていない無効理由に基づいて特許が無効にされると、特許権者の防御権が害されるため、職権証拠調べがなされたときは、当事者に通知がなされ、反論や訂正の請求をする機会が与えられます(特許法153条2項)。

 なお、かつては、後述の請求の理由の要旨変更の禁止を免れるために、上申書などで新たな無効理由が提出され、それを審判官が職権で取り調べるということがあったといわれていますが、現在の運用では、必要性が高い場合を除き、審判官が積極的に職権無効理由の取調べを行うことはないといわれています。

訂正の請求

 特許無効審判における特許権者の防御手段として、訂正の請求という手続が用意されています。訂正とは、無効理由を回避することなどを目的に特許の記載内容を変更する手続で、通常は訂正審判という独立の手続によって行われますが、特許無効審判や特許異議申立ての係属中は、訂正の請求という手続によることとなります。詳細は、「特許法における訂正とその手続」をご覧ください。

 訂正の請求は、特許無効審判係属中いつでもできるわけではなく、請求時期が以下の各時期に限定されています(特許法134条の2第1項柱書)。

  1. 答弁書の提出時(特許法134条1項)
  2. 審判長の許可による請求の理由の補正があったとき(特許法134条2項)
  3. 有効審決が審決取消訴訟で取り消されたとき(特許法134条の3)
  4. 職権無効理由通知がなされたとき(特許法153条2項)
  5. 審決の予告があったとき(特許法164条の2第2項)

請求の理由の要旨変更補正の禁止とその例外

 特許法131条の2第1項柱書は、審判を請求した後に審判請求書の「要旨を変更する」補正をしてはならない、と規定しています。事件の同一性が失われるような変更を加えてはならない、ということです(参照:「特許無効審判の概要と無効理由」)。

 上記の例外として、請求の理由については、同項第1号により変更が認められているのですが、同号は、「特許無効審判以外の審判を請求する場合における前条第一項第三号に掲げる請求の理由についてされるとき」となっており、特許無効審判は対象外とされています。その結果、特許無効審判だけは、請求の理由の要旨変更が認められず、原則として、審判請求時に審判請求書に記載した無効理由についてのみ審理がなされ、審判請求後に無効理由を追加することはできないこととなっています。その目的は、際限なく無効理由が追加されることによって審理が遅滞するのを回避することにあります。

 この原則に対する例外として、特許法131条の2第2項の審判長の許可を得た場合が定められています(特許法131条の2第1項2号)。審判長が許可をする場合としては、①訂正の請求(前記3)によって請求の理由の補正が必要になった場合(特許法131条の2第2項1号)と、②補正にかかる事項を当初の審判請求書に記載しなかったことに合理的理由があり、かつ、被請求人が同意した場合(同項2号)が規定されています。

 2号が適用されることはほとんどないため、実際上審判長の許可がなされるのは、訂正の請求があった場合、つまり、訂正によって特許無効審判の対象となる特許の内容が変化し、それに応じた無効理由を提出する必要がある場合に限られています。

審決の予告

 審理の結果、特許が無効であると認められるときは、審判長は、当事者および参加人に対し、審決の予告をします(特許法164条の2)。これは、審決取消訴訟移行後は訂正の機会がなくなることから、特許権者に対し、審決前に訂正の機会を与えることを目的とした制度で、平成23年の法改正によって導入されました。詳細は、「訂正審判とは」を参照ください。

審決とその効力

 特許を無効にすべき旨の審決が確定すると、特許権は初めからなかったものとみなされます(特許法125条本文)。ただし、後発的無効理由による無効の場合には、無効理由が生じた時から存在しなかったものとみなされます(同条ただし書)。

 特許無効審判の審決が確定したときは、当事者および参加人は、同一の事実および同一の証拠に基づいてその審判を請求することができなくなります(特許法167条)。このことを一事不再理といいます。無効審決が確定すると、もはや特許無効審判を請求する意味は失われますので、一事不再理の実質的意味は、有効審決が確定した場合に紛争の蒸し返しを防止することにあります。

 かつて、一事不再理は、第三者に対してもその効力が及ぶものとされていました。つまり、誰かが特許無効審判で負けると、第三者も、同一の事実と同一の証拠では無効主張をすることができなかったのです。しかし、これに対しては、裁判を受ける権利(憲法32条)に反するなどの批判が強く、平成23年改正法によって、その効力が当事者と参加人にのみ及ぶ相対効とされました。これに伴い、特定当事者間の紛争の蒸し返し防止という趣旨が明確になるため、従来よりも、「同一の事実及び同一の証拠」の範囲を広く捉えるべきであるとの考え方も提示されています。

不服申立て

 特許無効審判の審決に不服があるときは、知的財産高等裁判所において、取消訴訟を提起することができます。取消訴訟の概要については、「特許法上の審決等取消訴訟の概要と法的性質」を参照ください。

「特許無効審判」に関する参考記事:
  1. 特許無効審判の概要と無効理由
  2. 特許無効審判の請求人適格
  3. 特許無効審判の審理と審決(当記事)

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