ソーシャルレンディング事業の実施の留意点と今後の課題

ファイナンス

 ソーシャルレンディング事業を実施するにはどのような規制に留意する必要がありますか。また、ソーシャルレンディングの課題についても教えてください。

 ソーシャルレンディングを取り扱う事業者(以下「SL事業者」といいます)は、匿名組合の出資持分を取得勧誘することを業として行うため、第二種金融商品取引業の登録を受ける必要があります。また、SL事業者は、資金需要者に対して業として貸付けを行うため、貸金業の登録を受ける必要もあります。これらに関連して、SL事業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」といいます)に基づき、投資家や資金需要者について取引時確認等を実施する必要があります。

 また、SL事業者は、現状、匿名組合の出資持分を取得勧誘する際、資金需要者の名称を投資家に開示することができず(匿名化)、また資金需要者を複数にしなければなりません(複数化)。この匿名化・複数化は、資金需要者が特定されていると投資家が貸金業の登録を受ける必要があるとの懸念が生ずるからとの説明がなされていますが、かえって投資家による投資判断を誤らせるおそれもあるため、解消される方向性で検討されています。

解説

目次

  1. 法的な枠組み(金融規制法)
    1. 第二種金融商品取引業
    2. 貸金業
    3. 犯罪収益移転防止法
  2. 特殊な議論 - 匿名化・複数化とその解消の動き
    1. 匿名化・複数化とその理由
    2. 匿名化・複数化の解消へ
    3. 規制改革実施計画
  3. まとめ
    1. 投資家の目線
    2. 資金需要者の目線
    3. SL事業者の目線

法的な枠組み(金融規制法)

 ソーシャルレンディングの契約関係は比較的単純なのですが(詳しくは「ソーシャルレンディングの仕組みと契約関係」を参照ください)、SL事業者は投資家との間の匿名組合契約と資金需要者との間の金銭消費貸借契約について、それぞれ金融商品取引法と貸金業法といった金融規制法が適用されることになります。なお、資金需要者が法人であることを念頭において説明します。

第二種金融商品取引業

 まず、SL事業者は、自らある営業のために投資家を募って匿名組合契約に基づいて金銭の受入れをする場合には、匿名組合の出資持分を取得勧誘すること(自己募集・私募)になりますので、第二種金融商品取引業の登録を受ける必要があります(金融商品取引法28条2項1号、2条8項7号ヘ、29条)。その趣旨は、有価証券の自己募集は、原則として金融商品取引法による業規制の対象にはならないものの、ファンド持分の自己募集の形式により投資家被害が生じたとの指摘があったことなどを踏まえて、ファンドの持分など一定の有価証券の自己募集については、登録を受けた業者にのみ担わせるべきという点にあります。

 また、SL事業者は、第二種金融商品取引業の登録を受ければそれで自由に取得勧誘行為ができるというわけではなく、書面交付義務などの行為規制を受けることになります(金融商品取引法37条の3、37条の4等)。加えて、第二種金融商品取引業者は、一般社団法人第二種金融商品取引業協会が策定する「事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則」に基づき、1-2で説明する貸金業法に基づく返済能力調査義務の履行とは異なる観点から、事業の審査をしたり(同規則5条1項)、期中における出資対象事業の状況等についてモニタリング等をしたりする必要があります(同規則7条)。
 このように、投資家を保護する観点から、第二種金融商品取引業者には様々な規制が及びます。

匿名組合の出資持分の取得勧誘行為は、第二種金融商品取引業に該当する

 SL事業者が自ら匿名組合出資持分の取得勧誘をまったく行うことなく、プラットフォームと呼ばれる第三者に私募の取扱い(金融商品取引法2条8項9号)として委託する場合には、SL事業者は第二種金融商品取引業の登録は不要となります(金融庁「『金融商品取引法制に関する政令案・内閣府令案等』に対するパブリックコメントの結果等について - コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2007年7月31日)No103以下参照)。ただし、当該第三者は、第二種金融商品取引業の登録を受ける必要がありますし(金融商品取引法28条2項2号、2条8項9号、29条)、金融商品取引法の行為規制のほか、事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則も含み、自己募集と同様に様々な規制を受けることになります。

匿名組合の出資持分の取得勧誘の代行行為は、第二種金融商品取引業に該当する

貸金業

 次に、SL事業者は、反復継続して社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に貸付けを行うことが予定されることから、貸金業の登録を受ける必要があります(貸金業法2条1項、3条1項)。その趣旨は、貸金業を営む者の適正な運営の確保および過剰与信を防止するなど資金需要者の利益を保護する点にあります。
 また、SL事業者は、貸金業の登録を受ければそれで自由に貸付けができるというわけではなく、返済能力調査義務(貸金業法13条)、書面交付義務(貸金業法16条の2、17条、18条)などの行為規制を受けることになります。

 法人については、個人向け貸付けに関するいわゆる総量規制(原則として年収の3分の1を超える貸付けは許容されない)の適用はありません(貸金業法13条の2)。しかし、法人に係る返済能力調査義務に関し、一般社団法人日本貸金業協会の「貸金業の業務運営に関する自主規制基本規則」において、法人の資金使途が経常的な運転資金の場合は、複数年の決算書または資金繰り表の提供または提出を資金需要者から受けることを要求され、過剰与信がなされないように一定の牽制がなされています(同規則33条)。  

反復継続して社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に行われる貸付けは、貸金業に該当する

犯罪収益移転防止法

 また、第二種金融商品取引業および貸金業のいずれにおいても、顧客についてマネロン・テロ資金対策の観点から、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認(同法4条1項)などの義務が課されることになります。犯罪収益移転防止法の詳細については割愛します。

特殊な議論 - 匿名化・複数化とその解消の動き

匿名化・複数化とその理由

 目下のところ、ソーシャルレンディングにおいては、資金需要者を匿名とすることが求められることから、資金需要者の名称は開示されていません(匿名化)。貸金業法を所管する金融庁は、資金需要者の名称が開示されると、実質的にみて、投資家が資金需要者に対して貸付けをしていると解され、投資家に貸金業の登録が必要になるとの疑義が生ずるからと説明してきました。同じ理由から、ひとつのファンドについては複数の資金需要者がいるべき(複数化)と理解されています。

匿名化・複数化の解消へ

 ソーシャルレンディングの業界においては、一部のSL事業者から資金需要者に対して資金使途の確認や管理が不十分な貸付けがなされる例などが見られたところです。これは匿名化・複数化により、投資家によるSL事業者に対する牽制または監視が効かない状態で貸付けが実施されていたということも一因であろうと思います。また、そもそも投資家としては、資金需要者の名称が開示された場合、その資金需要者をより支援する気持ちにはなるかもしれませんが、だからといってあえて投資家自らが資金需要者に対して貸付けをしているとは考えないのが通常であると思います。そこで、投資家の目線からすると、匿名化しなくても貸金業に該当しないとの解釈がとられることが望まれるところです。
 他方で、投資家の中にはソーシャルレンディングを純粋に金融商品として捉えており、資金需要者の名称の開示にさほどこだわりがない方もいると思います。そのため、資金需要者のニーズ次第では、匿名化をすることも許容されるべきように思います。

 そこで、資金需要者の名称を匿名化するべきまたは匿名化するべきではない(開示すべき)という二元的な議論ではなく、資金需要者を匿名化した上でファンドを組成するか、資金需要者の名称を開示した上でファンドを組成するかについては、資金需要者のニーズも踏まえていずれも実現可能とし、最終的には投資家が自らの判断でファンドを選択できるようにするべきと考えます。
 このように、“匿名化しなくても構わない”という柔軟な運用に変更することは、多様なファンドが組成され、かつ、自立した投資家の育成がされることにもつながると考えられ、ひいてはソーシャルレンディング市場の適切な発展に寄与することになると思います。

規制改革実施計画

 匿名化・複数化の解消に関しては、2018年6月15日付で閣議決定された「規制改革実施計画」においても、「投資家に個別の貸金業登録を不要とするため従来の考慮の一要素とされてきた匿名化・複数化と並存する運用上の新たな方策を、借り手の属性なども含めて検討する」とされています。
 また、これを受けて、貸金業法を所管する金融庁も「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(平成30事務年度)」(2018年9月)において、「借り手の匿名化等以外にも認められうる新たな運用上の方策を、本年度中(筆者注:平成31年6月まで)に検討・措置する」ともされています。そのため、早晩、匿名化・複数化の強制は解消されるものと思います。

まとめ

投資家の目線

 投資家の目線からすると、ソーシャルレンディングは比較的高いリターンが見込める投資商品であると位置付けられると思います。投資にあたっては、ウェブサイト上に、SL事業者が繰り返し貸付けをして貸付金の回収の実績が積み上がっているような事業があれば、信用力があるものとして投資をするという方針もあると思います。他方、SL事業者から資金需要者に対する貸付けの実績がない場合であっても、ウェブサイト上に興味を惹くような新事業が掲げられており、その新事業を応援しつつも一定のリターンを得たいという考えの下で投資をするという方針も想定されるところです。
 なお、当然のことながら預貯金とは異なる元本保証のない金融商品(匿名組合出資持分)でありますので、最悪のシナリオとして元本がゼロになる可能性も秘めたリスクのある投資商品であることは理解した上で投資をするべきでしょう。

資金需要者の目線

 現状では、資金需要者が匿名化されていることから、投資家はSL事業者による取扱実績の乏しい事業については二の足を踏む可能性がありますので、資金需要者の目線からすると、新規案件としての資金調達は困難なケースがあるかもしれません。
 他方で、匿名化・複数化が強制されない方向性で議論が落ち着いて、資金需要者の名称を明らかにすることができ、かつ、投資家を惹きつけるような魅力のある事業を掲載することができれば、投資家も増え、資金需要者のすそ野も広がるように思います。また、低利回りでも安定した案件を希望するという投資家層が出現した場合は、信用力のある資金需要者がその名称を開示した上で、ソーシャルレンディングを利用して、社債の発行よりも簡易に低金利で資金調達をするという例なども出てくるかもしれません。匿名化・複数化の解消に伴い、多種多様で魅力あるソーシャルレンディングの案件が増加することが望まれます。

SL事業者の目線

 SL事業者の目線からすると、貸倒れのリスクは投資家にあることから、投資家から集めた資金をもって貸付けを行うというリスクの小さいビジネスを展開することができることになります。
 他方、SL事業者は、金融商品取引法、貸金業法、犯罪収益移転防止法など遵守する必要があり、いずれも軽い規制ではありません。しかし、別の見方をすると、これらの規制は参入障壁といえるものでもあります。そのため、ソーシャルレンディング市場が今後も拡大していく中において、信用力があり、投資家を惹きつけるような事業のアイディアを持った資金需要者を確保することができれば、SL事業者としても、必要なライセンスを受けつつ、適用法令を遵守する限りにおいて、手堅いビジネスモデルを確立することができるようにも思います。

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