不正・不祥事リスク対応の強化における重要なポイントとは(2)- 平時における「違和感」への対応

危機管理・内部統制
田谷 直樹

 不正不祥事を巡る報道が続いていますが、当社でも不正不祥事リスク対応の一環として内部監査部門のモニタリングを強化したいと考えています。その場合モニタリングに携わる者として重要なことは何でしょうか。

 モニタリングに携わる者として「違和感」にいかに敏感になれるかが、不正の実態解明に至るかどうかの点で極めて重要になります。会計監査人に求められる職業的懐疑心と同様に、モニタリングに携わる者も懐疑心を持ち、「違和感」とはどういうところで感じられるのかを日頃からイメージするとともにモニタリングの実践の場でその感覚を磨いていき、必要な手続を実施していくことが求められます。

解説

目次

  1. 平時の違和感を見逃さないためのヒント
  2. 不正の実態解明につながった事例
    1. 違和感
    2. 違和感に対する検証
    3. 顛末
  3. 不正の実態解明につながらなかった事例
    1. 違和感
    2. 違和感に対する検証
    3. 顛末

平時の違和感を見逃さないためのヒント

 不正が露見した後で振り返ると、不正の実行者の周囲の人たちやその実行者の業務周りをモニタリングしていた人たちは「あの状況は変だった」とか「担当者(=実行者)の説明は合理性がなかった」とか、その時は多少引っかかったもののあまり追求しなかったということがよくあります。ただ残念ながらこの多少引っかかったこと、すなわち平時で感じる違和感に対して、きちんと対応することは平時であるがゆえにとても難しいのです。

 この違和感を無視してしまうと、不正が露見しない期間が長期化し不正による損失が拡大してしまう、またその間に不正の証拠を隠滅されてしまい、後に露見したとしても実態解明が困難になる、さらにはモニタリングの機能不全など、不正の実行者からすると不正を行いやすい環境が放置されている、という状況を許すことになります。

 では、この平時の違和感に適切に対応できるようになるためにはどうしたらよいでしょうか。そのためには違和感とはどういうところで感じるのかを理解することだと思います。そこで参考になるのが公認会計士や監査法人が実施する財務諸表監査の一部に適用される「監査における不正リスク対応基準」(2013年3月)の「付録2 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況の例示」や、監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」(2011年12月策定、2018年10月最終改正)の付録3「不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況の例示」、付録4「不正による重要な虚偽表示を示唆する状況の例示」です

監査における不正リスク
対応基準
監査基準委員会報告書240
財務諸表監査における不正
付録2 不正による重要な虚偽の
表示を示唆する状況の例示
付録3 不正による重要な虚偽表示の兆候を示す状況の例示 付録4 不正による重要な虚偽表示を示唆する状況の例示
1 不正に関する情報 1 会計記録の矛盾 1 不正に関する情報
2 留意すべき通例でない取引等 2 証拠の矛盾又は紛失 2 留意すべき通例でない取引等
3 証拠の変造、偽造又は隠蔽の可能性を示唆する状況 3 経営者の監査への対応 3 証拠の変造、偽造又は隠蔽の可能性を示唆する状況
4 会計上の不適切な調整の可能性を示唆する状況 4 留意すべき通例でない取引等 4 会計上の不適切な調整の可能性を示唆する状況
5 確認結果 5 その他 5 確認結果
6 経営者の監査への対応 - 6 経営者の監査への対応
7 その他 - 7 その他

 これらの項目についての詳細は前述の付録に記載されている例示に譲りますが、次に実際に起きた不正事例から「違和感」がどのように感じられたのか、そしてどのように対処したのか、またすべきだったのかを見てみましょう。

不正の実態解明につながった事例

違和感

 棚卸に立ち会った者が、過去にも見たことのある商品が入った同じ段ボールが倉庫内に積まれたままであることから、なぜ廃棄をしないのかと疑問を抱きました。

違和感に対する検証

 このような場合通常「モノの動きが多少でもあるため廃棄できない」といった説明を受けるのですが、そこで感度を高くすることで、もしかしたら評価減や廃棄を免れるために帳簿上意図的にモノを多少でも動かしているのではないか、という発想が生まれます。実務ではこの違和感に対する説明の合理性を検証するため、実際にどれだけモノが動いているのか、サンプル出荷や倉庫間移動のような動きではないことを検討することになります。

顛末

 この事例では結果として、意図的に在庫の受払を生じさせることにより、長期滞留在庫1が正常な在庫であるかのように偽装し、帳簿価額の切り下げを不当に免れ、計上されるべき評価損を過少にしていたという不正行為が行われていました。

不正の実態解明につながらなかった事例

違和感

 システム開発の会社における内部監査担当者が、代表者が一人で業務を行っているある外注先に委託した取引の金額が多額である一方、当該業務期間が非常に短期の発注取引が存在することに気づきました。

違和感に対する検証

 これを受けて発注者(=代表者)にヒアリングを実施したところ、外注先からの成果物としてDVDを提示されたため、それ以上の調査は行いませんでした。
 この事例ではDVDの中身の検証まで行わないと発注者の説明の合理性を立証できないため、たとえばDVDの中の成果物を見て判断できる者(システム会社であれば他の部署にはそのような者はいるはず)に見てもらう必要がありました。

顛末

 後日、税務調査により当該取引について架空発注の指摘があり、会社は調査委員会を設置して調査を実施した結果、数億円が横領されていたことが判明しました。


 上記の事例で見たようにモニタリングに携わる者として、「違和感」にいかに敏感になれるかが不正の実態解明に至るかどうかの点で極めて重要になります。
 会計監査人に求められる職業的懐疑心と同様にモニタリングに携わる者も懐疑心を持ち、「違和感」とはどういうところで感じられるのかを日頃からイメージするとともに、モニタリングの実践の場でその感覚を磨いていき、必要な手続を実施していくことが求められます。

 以上のように、平時における「違和感」に対応した結果、不正の疑いが増して不正調査(有事対応)に進むこともあります。「不正・不祥事リスク対応の強化における重要なポイントとは(3)- 有事における初動対応の注意点」では、不正調査に進んだ場合の初動対応について説明します。


  1. 「長期滞留在庫」とは、販売や製造等の用に供されることなく、長期間に渡り保管されている在庫。例として、デッドストック. 売れ残り品。新品であっても、季節外れ・型落ちなど適正価格で販売することができず、相当な値引きをしなければ売れないと考えられるものが挙げられる。 ↩︎

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